日本イーライリリーと持田製薬、「便意切迫感」への課題と潰瘍性大腸炎を取り巻く環境改善についてセミナーを開催

左から:日本イーライリリー コーポレート・アフェアーズ本部 外村優佳氏、日本イーライリリー 研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部 臨床開発医師 松尾浩司氏、北里大学 北里研究所病院 炎症性腸疾患先進治療センター 特別顧問の日比紀文先生、持田製薬 経営企画部 広報室の興野大氏

日本イーライリリーと持田製薬は、「『潰瘍性大腸炎との暮らしを、話せる社会へ。』プロジェクト」メディアセミナーを7月5日にオンライン配信で開催した。メディアセミナーでは、北里大学 北里研究所病院 炎症性腸疾患先進治療センター 特別顧問の日比紀文先生から、「潰瘍性大腸炎の病態と治療法」および調査結果の紹介を交えながら「潰瘍性大腸炎患者のQOL向上と課題」について講演を行った。あわせて、6月21日発売のヒト化抗ヒトIL-23p19モノクローナル抗体「オンボー(一般名:ミリキズマブ)」に関する臨床試験結果の説明、潰瘍性大腸炎を取り巻く環境の改善を目指した「潰瘍性大腸炎との暮らしを、話せる社会へ。」プロジェクトの概要ならびに取り組みの発表を行った。

北里大学 北里研究所病院 炎症性腸疾患先進治療センター 特別顧問の日比紀文先生

「炎症性腸疾患(IBD)とは、腸の慢性・再燃性の炎症を特徴とする多因子免疫疾患であり、潰瘍性大腸炎とクローン病に分類される。潰瘍性大腸炎の炎症部位は『大腸』のみであるのに対し、クローン病の炎症部位は『口から肛門までの消化管』となる」と北里大学 北里研究所病院 炎症性腸疾患先進治療センター 特別顧問の日比紀文先生。「潰瘍性大腸炎は、原因は不明(指定難病の1つ)で炎症部位は『大腸』のみとなる。下痢、血便、腹痛などの症状が見られ、患者数は約22万人、若年者に発症しやすく、男女の性差はない(男女比1:1)。患者の約63%が軽症で、中等症は約28%、重症は約3%という内訳となっている」と潰瘍性大腸炎について詳しく解説した。「潰瘍性大腸炎の主な症状は、下痢、腹痛、渋り腹、排便回数の増加、血液や粘液の排出、便意切迫感となっている」と、患者はしばしば出血をともなう緊急性の高い頻繁な排便を経験しているのだと教えてくれた。「さらに、大腸粘膜に炎症が生じて症状が強く現れる『活動期』と、症状が治まっている時期の『寛解期』を繰り返す」と、慢性化・長期化することが多いのだという。「潰瘍性大腸炎の病変別による分類は、直腸炎型、左側大腸炎型、全大腸炎型で、潰瘍性大腸炎の原因はまだはっきりわかってはいないが、過剰な免疫反応が関与していると考えられている」と、発症メカニズムは不明なのだと語っていた。

「潰瘍性大腸炎の治療を行う中で、『患者報告アウトカム(Patient Reported Outcome:PRO)』という評価尺度を用いて痛みや不安などの身体・心理的な症状を患者に直接尋ね主観的な評価を測定している。これに血液検査や画像検査の結果など医学的な指標をプラスしている」と、患者の主観を重視した治療効果の評価と従来の治療効果の評価を組み合わせているのだと述べていた。「潰瘍性大腸炎の治療では、軽症の場合、経口-ASA/局所-ASA(坐剤・注腸)を行い、症状が重くなっていくにつれて、局所副腎皮質ステロイド(坐剤・注腸)、血球成分除去療法、全身副腎皮質ステロイド(経口・静注)、免疫調節薬(チオプリン)を処方する。最近では、抗TNF-α抗体製剤、カルシニューリン阻害薬、JAK阻害薬、インテグリン阻害剤(抗α4β7、α4阻害)、抗IL-12/23p40抗体製剤も使われるようになった。そして重症と判断されると手術を行うこともある」と、段階を追って医療を行っていると教えてくれた。

日本イーライリリー 研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部 臨床開発医師の松尾浩司氏

日本イーライリリー 研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部 臨床開発医師の松尾浩司氏が、「オンボー(ミリキズマブ)」の臨床結果について報告した。「オンボーは、潰瘍性大腸炎治療薬として世界で初めての抗IL-23P19モノクローナル抗体製剤として登場した」とのこと。「そして、既存治療薬に対して効果不十分、効果減弱または忍容性不良の中等症から重症の活動性潰瘍性大腸炎患者を対象に、オンボーの有効性と安全性を検討した」とオンボーの第III相臨床試験の試験を行ったという。「LUCENT-1試験では、盲検下寛解導入試験として12週時点における臨床的寛解を評価項目とした。LUCENT-2試験では、盲検無作為化維持試験として寛解導入期において臨床的改善を達成した患者のうち40週時点(寛解導入期から52週)における臨床的寛解を評価した」と、LUCENT-2試験(維持療法)における有効性と安全性は、LUCENT-1試験(導入療法)でオンボー投与による臨床的改善を達成した患者を対象に評価されたのだという。「寛解導入期(12週時点)における臨床的寛解・臨床的改善の達成率は、すべてにおいてオンボー点滴静注300mg群の方が高かった。オンボー投与開始から52週時点(維持療法40週時点)における臨床的寛解達成率では、ミリキズマブ皮下注200mg群の方が高かった」とのこと。

「便意切迫感は、突然かつ緊急に感じる排便の必要性と定義されている。LUCENT-1・LUCENT-2試験では、0から10までの11ポイントによる便意切迫感に関するNRSで評価された。患者は、過去24時間における患者の排便に対する切迫感(突然または即時の必要性)の重症度を、0(便意切迫感なし)から10(考えられる最も悪い便意切迫感)で報告した。評価スコアは1週間の患者の平均スコアで算出した。便意切迫感に関するNRSは、成人UC患者に対してvalidateされた評価指標となっている」と、便意切迫感に関するnumeric rating scale(NRS)も評価したとのこと。「寛解導入期(12週時点)における便意切迫感に関するNRSスコアの変化では、オンボー点滴静注300mg群の方が低く、オンボー投与開始から52週時点(維持療法40週時点)における便意切迫感に関するNRSスコア0または1の達成率では、オンボー皮下注200mg群の方が高かった」と、便意切迫感に関するNRSスコアについてもプラセボ群と比較して有意な差が見られたとまとめていた。

北里大学 北里研究所病院 炎症性腸疾患先進治療センター 特別顧問の日比紀文先生

再び、日比先生が登壇し、潰瘍性大腸炎患者のQOL向上と課題について説明した。「潰瘍性大腸炎の発症年齢は若年から壮年が最も多く、社会的活動が最も活発な年代である。就学、就労や結婚、妊娠など重要なライフイベントを迎える年代でもあり、また職場や家庭でも責任ある社会的立場を担う年代であるが、潰瘍性大腸炎はこれらに影響を及ぼすことが非常に多い」とのこと。「医療者側は、病勢をコントロールするのみならず、患者が充足した生活を送れるよう、QOLを良好に保てるようにしなければならない。一方、患者側は、患者自身のセルフマネージメントが必要である」と、さまざまなライフイベントに影響を及ぼす疾患であると力説する。「潰瘍性大腸炎の主な症状に便意切迫感がある。これは、突然かつ緊急に感じる排便の必要性であると定義されている。便意切迫感は、潰瘍性大腸炎患者が最小限に抑えたい、または消失させたいと願う最も厄介な症状の1つとされている」と、QOLを低下させる症状なのだと教えてくれた。

「患者が相談しにくい症状や悩みでは『便失禁』が最も高く31.4%に達した。患者にとってはセンシティブなこと。恥ずかしいことと感じて症状について話したがらないかもしれない。医師は便意切迫感についてすべての患者に尋ねているわけではないのだが、医師および看護師などは、患者が有する特定の症状の影響を過小評価している可能性があり、患者にとって重要な問題であることを認識できていないかもしれない」と、便意切迫感についての医師と患者のコミュニケーションは少なく、医師および看護師などの認識も低いと語る。「患者は便意切迫感をコントロールすることは、さまざまな治療の中で最も価値があり意味のあることだと考えている。便意切迫感は、最もQOLに影響があると患者が報告する症状の1つであるにもかかわらず、最もよく使用される活動性指標には含まれていない。患者報告アウトカム(PRO)は、臨床現場での意思決定において価値ある情報としてますます受け入れられてきており、簡単に情報収集できることが保証されているツールである」と、便意切迫感について日常臨床で考えるべきことを話した。

「そこで、『潰瘍性大腸炎における便意切迫感の影響と実態に関するインターネット調査(2022年12月~2023年1月)』を日本イーライリリーが実施。潰瘍性大腸炎患者104人、一般生活者425人(いずれも20歳以上65歳未満)を対象とした意識調査を実施した。その結果、突然の激しい便意『便意切迫感』に、毎日襲われる患者は4割以上いた。約50%が『トイレの待ち時間に不安を感じる』と回答。『仕事・学校を辞めた』などのケースもみられた。『うまく付き合えている』という人も多いが、便意切迫感の対処に費やす時間は平均30分だった。便意切迫感から、ほぼ全員が本当は『解放されたい』と回答していた」と調査結果について報告した。

「患者は、便意切迫感によって、日常生活だけでなく人生のイベントにも影響を受けている。“患者の努力”によって日常生活が維持されている。調査から『うまく付き合っている』と思っているが、本当は解放されたい『便意切迫感』であることもわかった。一方で、医師に伝えきれていないことも明らかになった。日常生活の中で『便意切迫感』で不安にならない環境作りが大切と思われる」と、便意切迫感の課題について語る。

「寛解状態では健康な人と同等の生活が可能となる。それだけに、周囲の偏見や誤解をなくし、患者が不安をもたない生活の実現に向けて努力していきたい」と患者が不安と偏見なく生きていける社会の実現が必要なのだと訴えた。

持田製薬 経営企画部 広報室の興野大氏

潰瘍性大腸炎を取り巻く環境の改善に向けた取り組みについて、持田製薬 経営企画部 広報室の興野大氏が紹介した。「当社は、絶えず先見的特色ある製品を開発し、医療の世界に積極的に参加し、もって人類の健康・福祉に貢献することを企業理念に掲げ、医療・健康ニーズに応えて人々の健康・福祉にいっそう貢献したいと考えている」と説明する。「当社では、軽症から重症まで潰瘍性大腸炎治療剤をラインアップしており、日本イーライリリーと昨年12月にミリキズマブの日本におけるアライアンス契約を締結した」と、潰瘍性大腸炎治療におけるさらなる貢献へのコミットを図っているとのこと。「疾患を抱える人々が暮らしやすい社会(QOLの向上)を実現するために、患者の抱える悩みに対する社会の理解を促進していく」と、日本イーライリリーとともに患者を取り巻く環境改善を図っていく考えを示した。

日本イーライリリー コーポレート・アフェアーズ本部の外村優佳氏

日本イーライリリー コーポレート・アフェアーズ本部の外村優佳氏は、「『潰瘍性大腸炎との暮らしを、話せる社会へ。』プロジェクト」について紹介した。「当社では、革新的医薬品の開発のみならず多様な疾患を抱える人々が暮らしやすい社会の実現への貢献にも取り組んでいる」とのこと。「患者を取り巻く環境の改善への貢献として、『円形脱毛症』の正しい理解促進を目指した『見る目を、変えよう。』プロジェクトや、がん患者や家族が想いを表現し、共有するリリー・オンコロジー・オン・キャンバス、病気をわかり合うことで職場を健康にする『みえない多様性』PROJECTを立ち上げている。そして、潰瘍性大腸炎の新プロジェクトを7月5日に発足した」と、潰瘍性大腸炎との暮らしを話せる社会へ導くプロジェクトを立ち上げたのだと語る。

声優の中村千絵さん

「潰瘍性大腸炎の患者は、『自分なりにうまく生活できている』からこそ周囲に見えないつらさや我慢を強いられている。プロジェクトでは、『理解してほしい』と『サポートしたい』を相互理解に導くべく、潰瘍性大腸炎の患者である声優の中村千絵さんが、同じ悩みを抱える患者と周囲に向けた『中村千絵さんからのメッセージ』を公開する。さらには患者の声をもとに生まれたWEB動画を8月上旬に公開する」と、「潰瘍性大腸炎との暮らしを話せる社会」の実現に向けた取り組みをスタートすると発表した。

「潰瘍性大腸炎との暮らしを、話せる社会へ。」プロジェクトのメッセージ

日本イーライリリー=https://www.lilly.co.jp/
持田製薬=https://www.mochida.co.jp/


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