東京都、「卵子凍結を一緒に知る 基礎セミナー」を開催、卵子凍結を希望する本人だけでなく周囲の人々の理解促進へ

東邦大学医学部産科婦人科学講座 教授の片桐由起子先生

東京都は、将来の妊娠・出産に備えて、希望する女性が安心して「卵子凍結」を選択できるよう、本人だけではなく、家庭や職場など周囲の人々の卵子凍結についての理解を促進するため、昨年度に引き続き、年代や性別を問わず参加できる「卵子凍結を一緒に知る 基礎セミナー」を10月11日にオンラインで開催した。セミナーでは、東邦大学医学部産科婦人科学講座 教授の片桐由起子先生を講師に迎え、卵子凍結に関する正しい知識を知ってもらえるよう、卵子凍結の目的や採卵まで流れ、卵子凍結のメリット・デメリットなどを解説する「基礎知識講座」を実施した。また、片桐先生と卵子凍結経験者による経験談・座談会を通して、卵子凍結を考える上でのリアルな視点を紹介した。

東京都知事の小池百合子氏

セミナーの開催にあたり、東京都知事の小池百合子氏が挨拶。「東京都では、望む人が安心して子どもを産み育てられる社会の実現を最優先課題の一つに位置付けている。これまでも1人ひとりの思いに寄り添う切れ目ない支援を講じており、中でも、妊娠、出産を望む女性の選択肢を広げる卵子凍結への支援には、多くの反響が寄せられている。希望する女性が安心して卵子凍結を選択するには、周囲の人々の理解が不可欠となる。東京都は、今後も、1人ひとりの自己実現を全力で応援し、幸せを実感できる社会を作るため、必要な取り組みをスピード感を持って展開していく」と、メッセージを伝えた。

続いて、東邦大学医学部産科婦人科学講座 教授の片桐先生による卵子凍結の「基礎知識講座」が行われた。「卵子凍結とは、受精前の卵子を体外に取り出して凍結保存しておく医療技術で、精子と受精させた受精卵(胚)を保存する不妊治療とは異なる。卵子凍結の種類には、医学的適応となる『病気の治療によって妊娠しにくくなることが懸念される場合』と、ノンメディカルの『病気によって妊娠しにくくなることが懸念される場合』、『健康な女性が、年齢とともに妊娠しにくくなることを懸念する場合』の3つがある」と、卵子凍結の種類について紹介。「中でも東京都が支援しているのが、妊娠・出産を希望しているが、今はまだ妊娠・出産を選択しない女性が、将来の妊娠に向けて、加齢による卵巣機能低下を危惧して選択する卵子凍結となる。将来、凍結した卵子を使って妊娠・出産することを目的としており、『何歳で妊娠・出産することを目指すのか』、『何歳で産休・育業をとるのか』といったライフ・キャリアプランに関わる取り組みになる」と、卵子凍結とは何を目的とした支援なのかを説明した。

東邦大学医学部産科婦人科学講座 教授の片桐由起子先生

「通常の月経では、卵子が成熟の過程で淘汰され、毎月1個の卵子が排卵される。そこで卵子凍結では、効率良く卵子を回収するために、排卵誘発剤を使った卵巣刺激療法を行う。例えば、黄体ホルモン併用療法(PPOS)の場合は、月経3日目から排卵誘発剤と黄体ホルモンを毎日投与し、卵巣を刺激しながら排卵を抑えることで卵子を育てる。採卵33~36時間くらい前に、点鼻または注射でトリガー製剤を投与して卵子を成熟させ、経腟的に採卵を行う。卵巣刺激療法の診察では、経腟超音波プローベを使用し、超音波で卵胞を確認して卵子が育っているかどうかを評価する」と、採卵までのプロセスをわかりやすく解説してくれた。

「卵子凍結を行うことで、卵巣と卵子の時間を止め、加齢による卵子の数の減少と卵子の質の低下を回避することができる。また、年齢を気にすることなく『妊娠したい』『出産したい』『育てたい』と思う時期に、妊娠を計画し、妊娠する可能性を残すことができる。そして、スキルアップ・キャリアアップをしたい時期を、産休・育業によって中断されることがなくなる」と、卵子凍結をすることのメリットを強調。一方で、卵子凍結のデメリットにも言及し、「排卵誘発剤や採卵などによる身体的・経済的負担が大きいことに加え、将来の妊娠を確約するものではない。不妊治療における受精卵凍結に比べて、未受精卵凍結は出産率が低くなっている。また、妊娠成立のために必ずしも必要な医療であるとは限らず、卵子凍結をしなくても妊娠できる可能性はある。さらに、妊娠・出産時期を先送るほど、高年齢妊娠による身体へのリスクが増加する」と指摘した。

「卵子凍結は自由診療のため、施設によって費用は異なってくる。一例として、採卵までの費用が44万円(以下、すべて税込)、卵子凍結保管が1個あたり1万1000円とすると、採卵数が15個であれば60万5000円になる。さらに毎年、5万5000円が保管料として発生し、5年間保管すると27万5000円の費用がかかる」と、卵子凍結のために必要な費用の目安を紹介。「日本に比べて先行している海外の報告によると、卵子凍結を行う女性の80%以上が35歳以上で、平均年齢は36~38歳。卵子凍結をする理由は、『パートナーがいない』が第1位となっている。卵子凍結をした女性のその後の妊娠・出産率は約20%。凍結卵子の使用率は5.2~7%であり、90%強が凍結卵子を使用していないことがわかった」と、海外における卵子凍結のデータも教えてくれた。

最後に片桐先生は、「卵子凍結は、将来に向けた妊孕性温存の選択肢の一つであり、『いつ子どもを持つのか』、『どのような方法で親になるのか』、『自分にとって、今必要な方法なのか』など、ライフプラン全体の中で考えてほしい。東京都では、妊娠・出産を希望する女性が納得して卵子凍結を選択・決定できるよう、様々な支援を行っている。今回のセミナーをきっかけに卵子凍結の理解を深め、気になる人はぜひ近くの産婦人科専門医に相談してほしい」と、卵子凍結を前向きに検討する女性にエールを送ってくれた。

ウルトラランナーの尾藤朋美氏(左)と東邦大学医学部産科婦人科学講座 教授の片桐由起子先生の対談ムービー

この後、片桐先生と卵子凍結経験者による経験談・座談会ムービーが上映され、卵子凍結を考える上でのリアルな視点を紹介した。経験談ムービーでは、卵子凍結を経験したステルラ代表取締役の西史織氏、ウルトラランナーの尾藤朋美氏など3名が、片桐先生との対話の中で、卵子凍結を知ったきっかけや検討を始めた理由、決断する際に悩んだこと、実際に大変だったことなどを語った。また、座談会ムービーでは、ナスタ人材開発室 室長の宮本仙葉氏も加わり、卵子凍結に対する周囲からのサポートや、周囲に知っておいてほしいこと、卵子凍結をより多くの人が正しく理解するためのポイントなどについて、片桐先生と意見を交わした。

座談会ムービー

なお、東京都では、卵子凍結支援事業として、「加齢等による妊娠機能の低下を懸念する場合に行う卵子凍結」に係る費用を助成している。対象者は、東京都に住む18歳から39歳までの女性(採卵を実施した日における年齢)。助成額は、卵子凍結を実施した年度が上限20万円。次年度以降は、保管に係る調査に回答した際に、1年ごと一律2万円(2028年度まで実施)の予定。

また、「加齢等の影響を考慮して作成した凍結卵子を使用した生殖補助医療」に係る費用を助成している。対象者は、妻の年齢が43歳未満の夫婦で凍結卵子を使用した生殖補助医療を受ける人。対象となる医療行為は、卵子融解・授精・胚培養・胚凍結・胚移植・妊娠確認。助成額は、凍結卵子を融解し、受精を行った場合、1回につき上限25万円。「以前に凍結卵子を融解し作成した凍結胚」を融解して胚移植した場合は、1回につき上限10万円となる。

この他にも、「卵子凍結の手引き」の作成・配布、「TOKYOプレコンゼミ」や「キャリアとチャイルドプラン両立支援セミナー」の開催など、様々な支援事業を展開している。今回の「卵子凍結を一緒に知る 基礎セミナー」について、東京都福祉局 子供・子育て支援部 調整担当課長の和田栞氏は、「このセミナーは、卵子凍結をする本人だけでなく周囲の人々の理解を促すと共に、卵子凍結について広く知ってもらうために開催するもので、今年度で2回目となる。卵子凍結は、いつかは子どもを産み育てたいが、今はいろいろな事情があって難しいという女性にとって、生き方の選択肢を広げる医療技術だと思っている。セミナーを通じて、多くの人が卵子凍結への理解を深め、将来の妊娠・出産に向けて卵子凍結を検討するきっかけにしていきたい」と、引き続き卵子凍結の支援事業を推進していく考えを示した。

東京都=https://www.metro.tokyo.lg.jp


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