- Health&Medical2025/05/02 19:48
マイウェルボディ協議会、「女性の低体重/低栄養症候群(FUS)」の概念や原因・対策などを解説するプレスセミナーを開催

マイウェルボディ協議会は、4月17日に厚生労働記者会で日本肥満学会が提唱した新たな症候群「女性の低体重/低栄養症候群(FUS:Female Underweight/Undernutrition Syndrome)」に関するプレスセミナーを4月24日に開催した。セミナーでは、同 代表幹事で、順天堂大学大学院医学研究科 スポーツ医学・スポートロジー/代謝内分泌内科学 教授の田村好史氏が、「女性の低体重/低栄養症候群(FUS)」の概要、および同疾患に関連する問題やその対策などについて解説した。
現在、日本の20代女性の約2割が低体重(BMI<18.5kg/m2)であり、先進国の中でも特に高い割合となっている。低体重や低栄養は、骨量の低下や月経周期異常をはじめとする女性の健康に関わる様々な障害と関連していることが知られているが、日本では「痩せ=美」という価値観が深く浸透しており、例えば、近年では糖尿病や肥満症の治療薬である「GLP-1受容体作動薬」を適応外使用する安易なダイエット法などが、社会問題にもなっている。
「日本では、1980年頃から痩せた女性の割合が増え始め、1990年代以降は20代の20~25%程度が低体重に該当する状態が続いている。スリムな女性が多いイメージのある韓国でも、20代女性の痩せ率は、実は日本の半分程度。米国はさらに低いのが現状となっている」と、日本では若い世代で痩せた女性の割合が世界的に高くなっていると田村氏は指摘する。「日本の痩せた女性は、糖尿病になるリスクが高いことが最近の研究で明らかになっている。研究では、痩せた若年女性約100名を対象に調査したところ、標準体重の女性に比べて身体活動量が低く、エネルギー摂取量も少ない『エネルギー低回転型』の状態であり、筋肉量も少ないことがわかった。そして、痩せた若年女性では、耐糖能異常の割合が高いことが確認された。また、耐糖能異常だけでなく、低体重にともなう骨減少症も重大な健康リスクとなる。20代で骨減少症になると、骨密度は60代の数値にまで低下し、更年期・高齢期には、骨粗しょう症から転倒・骨折を引き起こし、要介護となる危険性も高まる」と、痩せがもたらす若年女性への健康リスクを説明した。

「こうした状況を受け、厚生労働省が発表した『健康日本21(第三次)』では、新たに『女性の健康』に関する項目を立て、骨粗しょう症検診受診率の目標を設定した。しかし、現在の医療制度や公衆衛生施策では、肥満対策が重視されており、痩せへの対策は進んでいないのが実状。そこで、日本肥満学会は、日本骨粗鬆症学会、日本産科婦人科学会、日本小児内分泌学会、日本女性医学学会、日本心理学会と協同して『女性の低体重/低栄養症候群ワーキンググループ』を昨年9月に立ち上げた」と、若年女性における低体重/低栄養の疾患概念の確立に向けたワーキンググループを設置したという。「このワーキンググループでは、骨量の低下や月経周期異常、体調不良をともなう低体重や低栄養の状態を『女性の低体重/低栄養症候群(FUS)』という新たな症候群として提唱し、広く日本社会に情報発信をしていくことで、女性の健康課題解決を目指していく」と、ワーキンググループの活動概要を紹介した。

「『女性の低体重/低栄養症候群(FUS)』の疾患概念としては、『低体重または低栄養の状態を背景として、それを原因とした疾患・症状・徴候を合併している状態』と定義した。また、同疾患の原因には、『生来の体質による体質性瘦せ』と『SNSやファッション誌などのメディアの影響』、『社会経済的要因・貧困などによる低栄養』の3つが挙げられる」と、「女性の低体重/低栄養症候群(FUS)」の疾患概念と原因について解説。「特に若年女性における大きな原因となっているのが、メディアによる影響だ。『痩せ=美』という価値観が低年齢層にまで浸透し、食事摂取制限を中心とした痩せ願望が強まっている。若年女性の過度な痩身志向は、様々な健康上のリスクをともなうため、正しい理解を促進するための教育介入などが必要である」との考えを示した。「一方で、同疾患の提唱によって、新たなスティグマ(差別・偏見)を生む可能性がある点にも留意が必要である。例えば、体質性痩せの女性に対する偏見を助長するリスクも存在する」と、痩せた女性へのスティグマに対する注意も呼びかけた。
「今後の方向性としては、まず1年後をめどに『女性の低体重/低栄養症候群(FUS)』の診断基準を確立するべく、ガイドライン策定に向けた研究を推進していく。次に、同疾患を健診制度の中に組み込み、骨量低下に対する早期の発見や介入を目指す。また、教育・産業界およびメディアとの連携を図り、若年女性に適切なボディイメージの教育を広げていく。この他に、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム (SIP)との連携による総合的アプローチも必要であると考えている」と、ワーキンググループの今後の活動方針を発表。「10年後には、女性の60%が『女性の低体重/低栄養症候群(FUS)』の健診を受け、栄養不足・痩せによる健康リスクに気づき行動する。児童の75%が適切なボディイメージについて学び、自分自身や他者の多様な美しさを尊重する。そして、75%の人が『自分らしい美しさ』や『多様な美』を理解し、前向きな自己表現を楽しめる社会にしていきたい。そのためにも、従来の『痩せ=美しい』という単一の価値観を上書きし、女性のウェルビーイングと社会全体の包摂性向上に貢献していく」と、ワーキンググループが目指す将来展望を語った。
マイウェルボディ協議会=https://mywellbody.jp/