その他ニュース

本田財団、第42回「本田賞 授与式・記念講演」を開催、脳深部刺激療法(DBS)の先駆的研究と実用化に貢献したアリム・ルイ・ベナビッド博士が受賞

2021.11.19 20:51 更新

 本田財団は、2021年の「本田賞」を、進行性のパーキンソン病による振戦などの自分の意思とは関係なく、体が勝手に動いてしまう不随意運動に対する脳深部刺激療法(以下、DBS)の先駆的研究と実用化に貢献を果たしたとして、ジョゼフ・フーリエ大学名誉教授、クリナテック研究センター理事長のアリム・ルイ・ベナビッド博士に授与することを決定した。11月17日には、第42回「本田賞」の授与式が、オンライン形式で開催され、ベナビッド博士がリモートで記念講演を行った。

 「本田賞は、科学技術分野における日本初の国際賞として1980年に創設された。以降、毎年1件、エコテクノロジーを実現させ、人間性あふれる文明の創造に貢献した科学技術者の表彰を行っている」と、本田財団の石田寛人理事長が挨拶。「42回目の本田賞を受賞したベナビッド博士は、世界で初めてDBSを進行性パーキンソン病などによる不随意運動の治療に応用し、その実用化に成功した。DBSは、脳の視床下核周辺に電極を埋め、高周波電流の刺激によって進行性パーキンソン病患者の振戦を軽減し、運動機能を回復させる外科的手法となっている。臨床での有効性が認められたことでDBSは世界各地で普及し、現在までに15万人以上が手術を受けている。この画期的な治療法を実用化したベナビッド博士の成果は、まさしく本田賞の精神に沿った偉大な功績であり、今回の贈賞となった」と、本田賞の授賞に至るベナビッド博士の取り組みを紹介した。

 続いて、第42回「本田賞」の受賞者選考の過程について、本田賞選考委員会の内田裕久副委員長が説明した。「本田賞選考委員会では、世界中に350名ほどいる推薦人に、候補者の推薦を依頼し、候補者の当該分野における専門家の意見も聞きながら、委員会で厳正に審査を進め、受賞者を決定している。毎年、科学技術分野を問わず推薦を依頼しているため、候補者の審査は困難を極める。今年も、推薦のあった15ヵ国29組の候補者の中から、白熱した議論を重ねた結果、ベナビッド博士を授賞者に決定した。選考過程では、候補者がどのようなチャレンジをして、その結果が業績として世界中の人々の実生活にまでいかに寄与しているのかという点を重視した」と、世界中のさまざまな分野の候補者の中から毎年1人の授賞者を厳選しているという。

 「ベナビッド博士は、世界で最初にDBSを進行性パーキンソン病などによる不随意運動の治療に応用し、その実用化に成功。臨床での有効性が認められたことでDBSは世界各地で普及し、現在までに15万人以上が手術を受けている。従来、パーキンソン病の治療で最適とされる薬物治療をしても無意識の異常動作を抑制できない場合、凝固術と呼ばれる脳の組織を焼く手術が一般的だった。DBSでは、脳に埋め込んだ電極を後で取り除くことができるだけでなく、電流の強度を微調整して病の進行度合いに応じた治療を行うことができる。また、DBSはパーキンソン病だけでなく、ジストニアなどの治療にも用いられており、歩けなかった人が自立できるようになるなど、多くの人のQuality of Life向上に貢献している。エコテクノロジーの原点は、『技術で人々を幸せする』ことであり、この画期的な治療法の先駆的研究と実用化によって、多くの人のQuality of Lifeを向上させ、人々の生活を豊かにするというベナビッド博士の取り組みは、本田賞にふさわしい成果であると認め、今回の授賞に至った」と、ベナビッド博士の授賞理由を説明した。

 そして、第42回「本田賞」の授与式が執り行われ、メダル・賞状とともに副賞として1000万円がベナビッド博士に贈呈された。本田財団の中島邦雄副理事長は、「世界では十数万の人がパーキンソン病で悩んでいる。この人たちの人生に光を当てたことは、大変貴重なことであり、重要な功績であると考えている。ベナビッド博士の取り組みに感謝している」と、パーキンソン病患者の人生を180度変えるほどの功績であったと強調した。ベナビッド博士は、「私が本田賞を受賞したと聞いた時は、信じられない気持ちだった。この受賞は、私一人ではなく、私を支えてくれた神経外科の人たちや、新たな治療法の開発に賛同してくれた多くの人たちすべてに与えられたものであると理解している。今回、本田賞を受賞できたことを本当に光栄に思っている」と、受賞の喜びを語った。

 授与式の後には、ベナビッド博士が「物理学とセレンディピティは臨床神経科学に利益をもたらすことができるか」をテーマに記念講演を行った。「パーキンソン病の治療法には、パーキンソン病によって活性化した脳の一部の神経細胞を熱で破壊する手術療法と、脳の活性化の要因であるドーパミンの減少を補う薬を使った薬物治療の2つのオプションがあった。しかし、どちらも合併症や副作用が生じるという課題があった。そこで、合併症や副作用がない安全な手術療法を模索している中で、130Hz程度の高周波による電気刺激が振戦を止めていることを発見した。これは、セレンディピティ(意図していない幸運な発見)といえるものだった」と、セレンディピティから脳深部刺激療法(DBS)の開発が始まったと振り返る。「治療法としては、外科的処置で脳の視床下核周辺に電極を埋め、高周波電流で刺激を与えるのだが、この治療に適用できる電極システムがすでに存在していたことも幸運だった。また当時、フランスには倫理面についての審議会がなかったため、速やかに実用化につなげることができた」と、DBSの実用化に至る過程においてもセレンディピティがあったと明かした。

 電極を視床下核に配置し、調整可能な高周波刺激を与えると定位脳手術と同じ改善効果が得られることを発見したベナビッド博士は、重度のパーキンソン病患者に1987年に世界初の視床刺激療法を、1997年には世界初の視床下核刺激療法を実施。振戦と筋硬直が緩和され、5年後も経過が良好であることを発表すると、DBSは世界のパーキンソン病治療における主流の治療法として定着したという。

 また、ベナビッド博士は講演で、臨床研究の結果を交えながら、DBSによるジストニアへの治療効果や精神疾患へのDBSの適用、さらには最新のブレイン・コンピュータ・インターフェイス(BCI)に関する取り組みにも言及。「これらの取り組みは、動きが制約されている患者の世界を良くし、その活動の範囲を広げることを目標としている。これは、ホンダがいろいろなマシンを提供していることと同じ方向を向いていると感じている」と、今後もさまざまな疾患で不自由を抱える人々のQuality of Life向上に全力を注いでいく考えを示した。

本田財団=https://www.hondafoundation.jp/


このページの先頭へ