医療最前線

高齢者向け食品市場の拡大と共に進化する介護食、家庭で無理なくおいしく健康に食べ続ける介護食のポイントとは

2022.04.28 20:12 更新

 近年、高齢者向け食品市場が急拡大している。富士経済の「高齢者向け食品市場の将来展望 2019」によると、2025年は2018年と比較して、全体で25.5%増の2046億円、中でも在宅向けやわらか食の市場は80.7%増と大幅に拡大し、75億円となる見込み。一方で、キユーピーが2018年に行った「介護食に関する調査」では、全体の25.5%の人が日常の支援・介護の中で困っている動作として「食事」に関すること(「食事の準備」「食品の買い物」「食事の介助」「食事の片づけ」等)を挙げている。食事は日々の楽しみであり、QOL(生活の質)向上には欠かせないが、一生毎日続いていくため、介護をする側の負担軽減が社会課題となっている。そこで今回、日本歯科大学 口腔リハビリテーション 多摩クリニック 院長の菊谷武先生に、家庭で無理なく、おいしく健康に食べ続ける介護食のポイントについて聞いた。

 高齢者向け食品市場の拡大にともない、施設向け食品では、慢性的な人手不足を背景に調理の簡略化需要が高まっており、近年は人件費などの総合的なコストを考慮し、加工度が高く提供しやすい、また、栄養価値が高いなどの高単価・高付加価値商品の採用が進んでいる。在宅向け食品では、店頭における配荷が拡大することで流動食、やわらか食、栄養補給食が急伸するとみられている。

 こうした状況の中、最近の介護食では、利用者のニーズに対応し、おいしさ・見た目とも大きな進化を遂げている。例えば、自宅でおいしく簡単に食べるための「やわらか食家電」や「カップ介護食」、好きなモノを食べたいが食べられないというニーズを解決する「摂食・嚥下和菓子」など進化した介護食が次々と登場してきている。また、コンビニやスーパーでも「UDF(ユニバーサル デザイン フード)」表記のモノが増え、いわゆる「やわらか食」と言われる商品もよく目にするようになってきた。

 進化する介護食の商品例として、ギフモが販売する「デリソフター」は、調理済みの食材や、惣菜・冷凍食品などを蒸気と圧力によって柔らかくする調理家電。附属の72枚刃カッターで食材に穴をあけることで、肉など繊維の多いものも見た目を崩すことなく加工することができる。キユーピーの「やさしい献立」は、オムライスなど馴染みの深い料理をやわらかく調理し、とろみをつけたカップ介護食となっている。カップ入りなので、容器のままレンジで温めて手軽に食べられる。賞味期間が1年以上のため、災害用のローリングストックにも活用できるとのこと。美濃与食品の「みたらし団子」は、おいしさや見た目の美しさ、季節感を大切にした介護食を推進する、京介食推進協議会監修の摂食・嚥下和菓子。見た目はみたらし団子そのものでも、ゼリーやムースと同程度の柔らかさに調理されているという。

 菊谷先生は、おいしく健康に食べ続けるための介護食のポイントについて、「『介護食はおいしくない』という印象を持っている人も多いかもしれない。確かに、栄養を重視して様々な食材を混ぜてペースト状にすると、食材らしい色や食感が失われ、味がぼやけてしまうこともある。しかし、食材らしい色やおいしさにこだわった市販の商品も続々販売されており、介護食は日々進化している。栄養だけに注目せずに、おいしさを感じられるモノを選ぶようにすると、QOL(生活の質)も向上する」と、栄養を摂るというだけではなく、おいしく食べることも重要なのだと強調する。「食べる機能の低下は少しずつ進むため、本人も周囲の人も気が付きにくく、気づいていても軽視しがちに。むせやすくなったり、せき込みやすくなったりする以外にも、痰が増えるなど食事機能の低下に該当するサインをよく注意してほしい」と、食べる機能の低下には、本人だけでなく周囲の人も注意する必要があると訴えた。

 「年齢や健康状態、生活習慣によって、その人に合った介護食は異なる。UDFの基準などわかりやすい基準を参考にしながら、専門医や専門機関と相談してほしい。また、調理方法によっては“おかゆ”でも誤嚥のリスクが高まる場合がある。一見水分が多く、とろみもあって飲み込みやすそうに見えても、さらさらした重湯とお米の2層に分かれ、誤嚥を招くことがある。正しい調理方法や市販品の選び方を知ることで、それらのリスクを下げることができる」と、専門医や専門機関とも相談しながら、その人に合った介護食や正しい調理方法の知識を身につけることも大切であると話す。

 「食事は生きているうちは毎日続くもの。家族が食べる普段の食事と、介護食を分けて作ることは単純に2倍以上の労力がかかる。さらに介護食は、その人の状態によっては様々な工夫をしなければならず、一定以上の調理スキルも求められる。手作りのあたたかい食事はおいしいものだが、手作りにこだわりすぎると介助者が疲弊してしまうこともある。市販品や外部のサービスなどを上手に利用して、支援者・要支援者も、介護者・要介護者も無理なく楽しい食事ができることが理想的」と、市販品や外部サービスをうまく活用することで、無理なく、おいしく介護食を楽しむことができるとの考えを示した。

 一方で、2018年にTPCマーケティングリサーチが男女615人を対象に行った「市販用介護食の利用実態」のインターネット調査によると、市販の介護食を利用しない理由として、トップの「価格面」に次いで、「家庭でつくった食材で十分」という回答が多く2位となった。これについて菊谷先生は、「高齢者の食事には、嚥下リスクをしっかりと認識し、対策する必要がある」と指摘する。また、見た目により食欲が減退するという高齢者も多く、同調査でも「おいしそうではないから」が5位に入っており、見た目などさまざまな要因で食事をしなくなることも多いという。

 家庭で介護食をつくる際に注意すべきポイントとしては、(1)食材の食感を保つ、(2)食材の形を保つ、(3)食材らしい香りを保つ--の3点を挙げる。「食材の食感を保つ」では、飲み込みやすいように工夫をする必要があるとのこと。おかゆなどは、ただミキサーにかけるのではなく、お米の味がするように炊いた後、裏ごしをするとよいという。「食材の形を保つ」では、素材によって、火の通りやすさが異なるものは調理方法を工夫し、食材の形が残るようにする。「食材らしい香りを保つ」では、料理をそのままミキサーにかけると、料理らしい味でなくなってしまう。そこで、素材ごとの味付けや、混ぜる順番などを工夫すると香りを残すことができるという。

 キユーピーでは、カップ介護食「やさしい献立」の開発にあたり、この3つのポイントを実施し、高齢者が安全かつおいしく食べられる介護食を実現したとのこと。また、キユーピーグループでは、介護食に関わる取り組みとして、従業員に向けてフレイル予防の啓発にも力を注いでいる。例えば、オフィスの執務エリアのサイネージにフレイル予防に必要な3つの柱や食事の摂り方などを掲示。さらに「フレイルの日」に、東京2ヵ所のオフィスの社員食堂では、自社商品の「やさしい献立」を使用したメニューを提供している。フレイル予防を高齢者だけの問題と捉えず、今から備える大切さをグループ従業員が理解し、周囲に伝える動きにつなげることを目指していく考え。


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