医療最前線

京都大学iPS細胞研究財団、企業19社18グループと協同で「P.S. i LOVE YOU PROJECT」を始動、iPS細胞技術を使った再生医療を当たり前の医療に

2022.02.17 17:55 更新

 京都大学iPS細胞研究財団(CiRA_F)と企業19社18グループは、iPS細胞技術を使った再生医療の実現を目指す取り組みを応援する人々の輪を広げるため、2月14日から「P.S. i LOVE YOU(ピー エス アイ ラブ ユー)PROJECT」を始動した。同日に開催されたオンライン発表会では、京都大学iPS細胞研究財団の山中伸弥理事長と、プロジェクト参画企業から大日本住友製薬 代表取締役専務執行役員の木村徹チーフサイエンティフィックオフィサー、レイメイの小林正和社長、オリヅルセラピューティクスの野中健史社長によるトークイベントが行われ、iPS細胞を活用した再生医療の課題と展望について意見を交わした。

 京都大学iPS細胞研究財団では、細胞製品の原料となるiPS細胞ストックやiPS細胞ストックを拡大培養したセルバンクを製造しており、iPS細胞ストック事業を非営利機関や企業との連携や情報共有を前提としたオープンイノベーション型の事業として進めることにより、知識・技術集積拠点となることを目指している。また、iPS細胞を使った治療が広く社会や医療に浸透することを目指し、品質、時間、コストの問題を解決する次世代iPS細胞の開発に取り組んでいる。一方で、この目的を達成し、iPS細胞を活用した再生医療を当たり前の医療とするためには、大学、同財団、企業が一体となって諸課題に取り組んでいくことが求められている。そこで今回、iPS細胞を活用した再生医療について一般の人にも理解、関心を持ってもらい、多くの人から応援してもらう機運を高めるべく、「P.S. i LOVE YOU PROJECT」を始動する。

 「P.S. i LOVE YOU PROJECT」では、京都大学iPS細胞研究財団と企業19社18グループが協同で、特設サイトやイベントなどを通じてiPS細胞技術への理解やあたりまえの医療にしていくための取り組みを発信していく。特設サイトでは、同財団と19社の企業が、現在の取り組みやiPS細胞の実用化にかける思いを語る動画を見ることができる。また、2025年に行われる大阪・関西万博のプロジェクトの一つである「Team EXPO2025」に登録しており、イベントを通じて支援の輪を拡大し、iPS細胞技術を当たり前の医療にすることを目指す。

 そして、「P.S. i LOVE YOU PROJECT」の始動にあたり、2月14日には、京都大学iPS細胞研究財団の山中伸弥理事長と、大日本住友製薬 代表取締役専務執行役員の木村徹チーフサイエンティフィックオフィサー、レイメイの小林正和社長、オリヅルセラピューティクスの野中健史社長によるトークイベントが行われた。まず、イベントの進行を務める京都大学iPS細胞研究財団の高須直子業務執行理事が、「iPS細胞を使った再生医療は、多くの研究者や企業の努力によって、国内での臨床開発が着実に進められている。しかし、iPS細胞技術を実用化し、当たり前の医療にしていくためには、様々な課題を乗り越えていく必要がある」と、iPS細胞技術による再生医療の課題について各社に聞いた。

 レイメイの小林社長は、「日本では、各企業がそれぞれでiPS細胞技術の研究開発を進めており、橋渡しをする存在が欠けている。特に、今後は革新的な技術を持つスタートアップをサポートしていくことが重要であると感じている。しかし、スタートアップと企業の間には、“死の谷”があり、実用化までのサイクルが長い再生医療業界では投資リスクが大きいという課題を抱えている。そのため、ベンチャーエコシステムのような仕組みではなく、資金力のある大企業がスタートアップの研究開発を支援していく必要がある」と、iPS細胞技術のスタートアップを支援することの重要性を指摘する。

 オリヅルセラピューティクスの野中社長は、「iPS細胞技術に限らず、革新的な医療や医薬品を当たり前のものにするためには、研究者の努力だけでは難しい。それに関わる多くのステークホルダーを巻き込み、世間への情報発信を通じて、コンセンサスを得ることが大切だと考えている。iPS細胞技術の実用化に向けては、世間に受け入れられる土壌はできつつあると感じており、当社としてもこの期待に応えられるよう科学技術や生命倫理について正しく情報発信していきたい」と、iPS細胞技術への理解度をさらに深めていく必要があるとの考えを述べた。

 大日本住友製薬の木村チーフサイエンティフィックオフィサーは、「iPS細胞技術を当たり前の医療にするための大きな課題としては、グローバルで基準が統一されていないことが挙げられる。この点は、京都大学iPS細胞研究財団がイニシアティブをとって進めてほしいと思っている。また現在、iPS細胞による再生医療は、臨床試験まで進んでいる状況だが、承認された後にも、製造販売から患者への移植手術、術後ケアまで大きなサイクルが動くことになる。そのため、実用化に向けては、製薬会社だけでなくさまざまなステークホルダーを含めたトータルな医療体制を構築していく必要がある」と、iPS細胞技術の実用化を見据えた医療体制の整備を提言した。

 京都大学iPS細胞研究財団の山中理事長は、「私がヒトiPS細胞の樹立を発表してから15年が経つ。当初、米国は様子見の状況だったが、ここ5年で一気に投資額を増大してきている。現在は日本がリードしているが、あっという間に逆転されてしまう可能性もある。日本企業がこの強力なライバルに対抗するには、協力しかないと考えている。ただし、ガチガチの企業提携ではなく、緩やかな企業連携を通じて、いかに情報共有を促進できるかがポイントになる。当財団が、この企業連携を実現するための仲立ち役を担っていければと思っている」と、iPS細胞技術における優位性を保つために、今こそワンチームになる時なのだと訴えた。

 企業連携に向けた新プロジェクト「P.S. i LOVE YOU PROJECT」について、大日本住友製薬の木村チーフサイエンティフィックオフィサーは、「iPS細胞技術の実用化には、まだ多くの課題が山積している。それだけに、各社・各グループが同じ課題で苦しむのを避けるためにも、企業連携は非常に重要になると感じている。当社では、iPS細胞技術を使った治験を米国で行っているが、その中で共有できる情報については、プロジェクトを通じて積極的に提供していきたい」と、各社が抱えている共通課題を解消することができると期待を寄せた。レイメイの小林社長は、「当社は、2019年から取り組んでいるiPS細胞技術を使った臨床研究が今年3月に終了する予定で、いよいよ企業治験に入る段階まできている。今回のプロジェクトでは、こうした各企業のiPS細胞技術の研究事例を、世界にブリッジングしていく役割に期待している」と、日本企業の研究成果を世界へ発信してほしいと話していた。オリヅルセラピューティクスの野中社長は、「当社は、湘南ヘルスイノベーションパーク(湘南アイパーク)に入居し、研究者を始め法律家、投資家、証券会社など多種多様なステークホルダーと協力しながらiPS細胞由来の再生医療等製品の研究開発を進めている。iPS細胞技術の実用化に向けては、生命倫理の観点が問題になるが、この点については京都大学iPS細胞研究財団がリードして、再生医療が現場に受け入れられる環境を醸成していってほしい」と、iPS細胞技術が適切に医療現場に広がっていくことを願っていた。

 最後に、京都大学iPS細胞研究財団の山中理事長は、「これまで何度も試行錯誤を重ね、少しずつiPS細胞技術のノウハウを蓄積してきたが、まだまだできないことは多い。これからは、自分たちの能力を見極め、できない部分はアウトソーシングを活用し、うまく組み合わせていくことが重要になると感じている。iPS細胞技術の実用化にあたっては、最終的には民間企業がゴールテープを切ることになる。それだけに、今回のプロジェクトを通じて、企業連携をさらに深めていきたい」と、「P.S. i LOVE YOU PROJECT」にかける想いを語った。

京都大学iPS細胞研究財団=https://www.cira-foundation.or.jp/
P.S. i LOVE YOU PROJECT=https://www.cira-foundation.or.jp/ps-i-love-you/


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