医療最前線

塩野義製薬、がん患者の苦痛低減のための医療用麻薬の適正使用を推進、医療用麻薬に「最後の手段だと思う」などの意見に正しい知識の浸透への課題も

2021.11.20 18:33 更新

 塩野義製薬は、約30年前に持続性癌疼痛治療剤としての医療用麻薬を発売して以来、がん患者の苦痛低減のため、行政、学会、医療関係者とともに医療用麻薬の適正使用情報を提供してきた。がんの診断や治療については目覚ましい進展がある一方で、残念ながら未だ痛みなどの苦痛な症状を抱えQOLが満たされていない状態の患者が、3~4割存在する。11月18日には、医療用麻薬に対する印象や理解について、薬物乱用防止「ダメ。ゼッタイ。」普及運動との関係を麻薬・覚せい剤乱用防止センターの理事を務める湘南医療大学 薬学部長の鈴木勉先生と共同で調査した結果について報告した。また今回のセミナーでは、全国がん患者団体連合会の桜井なおみ理事に、がん患者の立場からがんの痛みや医療用麻薬による疼痛治療の現状と課題について話してもらった他、日本医科大学 准教授の山田岳史先生が、医師の立場からがん治療における医療用麻薬の適正な使用について解説した。

 まず、セミナーを前に、塩野義製薬 ヘルスケア戦略本部の田中裕幸CSR推進部長が挨拶した。「当社は、約30年前に持続性癌疼痛治療剤としての医療用麻薬を発売して以来、がん患者の苦痛低減のため、行政、学会、医療関係者とともに医療用麻薬の適正使用情報を提供してきた」と、同社の医療用麻薬の展開を振り返る。「しかしこの30年において、がんの診断や治療については目覚ましい進展がある一方で、残念ながら未だ痛みなどの苦痛な症状を抱えQOLが満たされていない状態の患者が、3~4割存在する」と、がんの治療における痛みに苦しむ患者は少なくないのだと訴える。「医療用麻薬使用への抵抗感を解消し適切な痛みコントロールを可能とするためには、がん患者はもとより、その周りでがん患者を支える人々も医療用麻薬の正しい知識や認識を持ってもらうことがとても大切だと考えている」と、医療用麻薬への理解を深めることの重要性を説く。「今回、新たに医療用麻薬に対する印象や理解についての一般市民対象のアンケート調査を行った。調査結果を通じて、今後一般の人々が医療用麻薬に関する正しい知識を習得し、自身や家族などの大切な人ががんに罹患した際に、痛みを我慢せず自分らしい生活を送ってもらうための一助となればと考えている」と述べていた。

 次に、湘南医療大学 薬学部長で医薬品適正使用・乱用防止推進会議 代表理事の鈴木勉先生が、新たに行った医療用麻薬に対する印象や理解についての一般市民対象のアンケート調査の結果について発表した。「遺族調査から、半数近くのがん患者は痛みを感じながら亡くなっている」とのこと。「痛みを緩和する薬として医療用麻薬が存在するが、一般市民の医療用麻薬に対する誤解は依然として高い水準となっている」と、「中毒になる」や「寿命を縮める」といった意見も約30%存在するという。「がん疼痛に対する薬物療法は、WHO方式がん疼痛治療法に則して実施されることが基本であり、激しいがん疼痛に関しては、モルヒネに代表される医療用麻薬が使用されている」と、医療用麻薬はがん疼痛抑制での場面で広く利用されていると説く。「しかし、我が国における医療用麻薬の使用量については、必要量に対する実使用比率で15.54%と少なく、その原因として多くの人が今も医療用麻薬に対する誤解や偏見を有するため、痛みがあっても医療用麻薬の使用をためらっている」と、誤解や偏見から理解が進んでいない現状を嘆く。

 「この一因に、1987年から始まった薬物乱用防止『ダメ。ゼッタイ。』普及運動の影響が考えられる」と、国民の薬物乱用問題に関する意識を高めるとともに薬物乱用防止に資することを目的とした運動が、医療用麻薬の理解の足かせになっているのではないかと指摘する。「そこで、『ダメ。セッタイ。』普及運動が、医療用麻薬の印象・理解に及ぼす影響についてインターネット調査を実施した」と、調査の主旨について発表。「世論調査では、日本人の医療用麻薬に対する印象はここ15年間で大きな変化はみられなかった」と、理解の浸透は横這い傾向であるという。「しかし今回の調査において、医療用麻薬を知っている人では、『正しく使用すれば安全である』が43.9%、『正しく使用すればがんの痛みに効果的である』が55.9%と、正しく理解していた。また、『最後の手段であると思う』が33.8%、『だんだん効かなくなると思う』が16.8%、『いったん使用し始めるとやめられないと思う』が9.9%と誤解も一定割合存在することがわかった」と、調査結果についてまとめていた。

 「我が国において、がんは、1981年から死因の第1位であり、2015年には約37万人ががんによって亡くなっている。生涯のうち、約2人に1人ががんに罹患すると推計されている。今後、急速な高齢人口の増加にともなう高齢のがん患者の急増によって、がん罹患者はさらに増加することが懸念される」と、がん患者は今後さらに増加すると説く。「がん患者のがん疼痛は、がんの診断時に20~50%、進行がん患者全体では70~80%の患者に存在するとの報告もある。がん疼痛患者における『バランスの取れた疼痛治療』を実現するためには、より多くの人が、医療用麻薬に関する正しい知識を備えることが必要ではないかと考える」と考察していた。

 次に、日本医科大学 消化器外科 准教の山田岳史先生と鈴木先生および進行役に全国がん患者団体連合会 理事、CSRプロジェクトの桜井なおみ代表理事を迎えたパネルディスカッションが行われた。桜井理事は、「がんを経験すると、がんと共にどう生きるかという社会問題。医療情報・治療方法の選択といった身体問題。心へ与える影響に関する心の問題。尊厳ある存在としての魂の痛みである尊厳の問題といった痛みに直面する」と、がん患者には4つの痛みが存在すると説明する。山田先生は、「課題はあるものの緩和療法も進んでいる。しかし、最終的には人と人とのコミュニケーションが成長しなければ課題も解決していかない。それだけに医師はもとより、看護師、薬剤師への教育や、患者やその家族の他に、子どもたちに対する教育も重要になっていく」と、子どもの頃から理解を身につけさせることも重要なのだと話す。

 「今回の調査では、医療用麻薬の使用を『最後の手段』と捉える人もいた。痛みはがんの進行や大きさとは関係なく生じ、痛みでがんが見つかることも珍しくない。そのため、がんと診断されたばかりの速い時期から、痛みの程度に応じて、医療用麻薬やその他の痛み止めを積極的に使っている」と、最後の手段という考えは間違いであると山田先生は訴えた。「だんだん効かなくなっていく」という声に対しては、「医療用麻薬を使っているとこれまでの量で痛みを抑えられなくなることがある。効かなくなったのではなく痛み自体が強まったか、使っている医療用麻薬では効きにくい痛みが加わった可能性がある。治療が奏功した結果、医療用麻薬の量を減らしたり、やめることもある」と、医療用麻薬が効かなくなったと感じたら、医師に相談し適切な治療を受ける必要があると山田先生は回答していた。一度使ったらやめられなくなるという声について、山田先生は、「医療用麻薬は痛みがある人に対して適切に使えば、麻薬中毒(精神依存)が生じることはほとんどないと報告されている。がんの治療の効果で痛みが弱くなったり、なくなった場合は、量を減らす、中止するなどで対応する。不安に感じた時は、医師、薬剤師に相談してほしい」と述べていた。

 副作用が心配との意見に鈴木先生は、「医療用麻薬の副作用として、便秘や吐き気、眠気がある。これらは、便秘治療薬や吐き気止め、眠気は続く場合は薬を減らしたり、変更することで対処できる」と、副作用についてはそれほど心配しなくてもよいとのこと。医療用麻薬で寿命が短くなるとの意見について、鈴木先生は、「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年度版では、医療用麻薬を使用すると寿命が縮まる懸念のために、鎮痛のための医療用麻薬を差し控えることは妥当ではないと考えられていると明記されている」と、痛みは我慢せず、早く和らげることが重要なのだと話す。「痛みを取り、日常生活動作を保つことは、むしろ延命につながるかもしれない」と、鈴木先生は力説していた。

 最後に、塩野義製薬 ヘルスケア戦略本部長の澤田拓子副社長が挨拶した。「当社では、麻薬の乱用をコントロールしながら、医療用麻薬の適正使用をどのように推進していくか、正しい知識をもっているのかといった点を調査するべくアンケートを行った。『最後の手段』との回答は依然として3割以上おり、この点を改善していく必要があると同時に、がんと診断された時点でサポートできるよう、今後もさらなる啓発活動に努めていく」と、医療用麻薬の正しい理解を推進するべく、様々な活動を行っていくと話していた。

塩野義製薬=https://www.shionogi.com/jp/ja/


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