医療最前線

食から認知機能について考える会、日本認知症予防学会と共催でメディアセミナーを開催、認知機能に対する「食」の影響やコロナ禍における認知症予防の課題などを説明

2021.05.10 21:38 更新

 食から認知機能について考える会は、一般社団法人日本認知症予防学会と共催で、5月7日に、「様々な『食』の観点から認知機能を考える ~withコロナ時代の認知症予防の課題とともに~」と題したメディアセミナーをオンラインで開催した。セミナーでは、加齢にともない徐々に低下する認知機能に対し「食」がどのように影響するのか、また「コロナ禍における認知機能低下に関するアンケート」の調査結果や、オーラルフレイルがもたらす認知機能への影響などについて、専門家の先生を招き、講演を行った。

 「超高齢社会を迎え、認知症の患者は増加の一途を辿っている。しかし、アルツハイマー型認知症をはじめとする神経変性疾患を根治できる治療法は、未だ確立していないのが実状だ。それだけに、認知症の発症を防ぎ、進行させないために、食生活が認知機能に与える影響が注目されている」と、食から認知機能について考える会代表・虎の門病院顧問の大内尉義先生が挨拶。「こうした背景の中、昨年7月に設立された当会は、食あるいは生活習慣から脳の認知機能低下の抑制・予防につながる最新の科学的エビデンスがある情報を正しく、わかりやすく伝えていくことを目的に活動している」とのこと。「特に昨年は、新型コロナウイルス感染症の影響でライフスタイルが大きく変わり、外出する機会や人とのコミュニケーションが減ってしまった。このことは、高齢者の食生活にも大きな影響を及ぼしており、認知機能の低下を加速させることが危惧されている。今回のメディアセミナーが、食および食生活と認知機能との関係について理解を深めるきっかけになればと考えている」と、メディアセミナーを開催する趣旨を述べた。

 続いて、国立長寿医療研究センター 老化疫学研究部長の大塚礼先生が、「食および食品成分と認知機能の関連」について説明した。「脳には血液脳関門があり、非常に限られた栄養素しか脳に届かないとされていたが、最近の研究では、血液脳関門には様々な栄養素の受容体があり、脳に良い影響を与えていることがわかってきた」と、食生活と認知機能には何らかの関連性があるのだと訴える。「海外では、認知症を予防するエビデンスを持った食事として地中海食が知られている。一方、日本人の一般的な食事は、主食に米飯、主菜に魚や肉、副菜として野菜、汁物にはみそ汁やお吸い物という日本独特のもので、油脂摂取量が比較的低く、魚介摂取量と塩分摂取量が多いのが特徴となっている。そこで、国立長寿医療研究センターでは、日本人の食事と認知症予防の関連性を調べるため、長期の栄養疫学研究に取り組んできた」と、日本人の食事が持つ認知症予防のエビデンスを研究してきたという。

 「地域住民を対象とした縦断疫学研究から、魚類や豆類、乳類を含む多様性のある日本人の食事は、認知機能の低下予防に有効である可能性が示唆された。特に、中高年期に様々な食品を摂取することは、認知機能低下リスクを抑制することがわかった」と、食の多様性指数が高い人ほど認知機能の低下リスクが抑制されたと研究結果について解説。「また、糖代謝の指標であるHbA1cの初期値が高いほど、10年間の認知機能が低下傾向を示した。これらのことから、若年期からの食生活を介した生活習慣病予防に取り組むと共に、多種多様な食品を摂取することで、認知機能の低下が抑制される可能性が示唆された」と、単一の食品ではなく、季節折々の様々な食材を用いた栄養バランスの良い減塩食が、日本人の認知症予防に効果的であるとの考えを示した。

 次に、日本認知症予防学会理事長・鳥取大学医学部教授の浦上克哉先生が、「コロナ禍における認知機能低下に関するアンケート」の調査結果について紹介した。「今回のアンケート調査は、コロナ禍での認知機能低下に関する現状を確認することを目的として、昨年5月と12月に計2回の調査を実施した。第1回は、日本認知症予防学会の会員414名を対象に、担当患者の変化に関する現状認識についてWeb調査を行った。第2回は、同学会員が担当する在宅患者計106名を対象に、在宅患者の現状について学会員による聞き取り調査を行った」と、アンケート調査の概要を説明。「まず、第1回調査の結果では、昨年の緊急事態宣言下、認知機能低下予防策を図っている高齢者において、認知機能の悪化が認められる人は5割近くいると学会員は捉えていた。特に、二次予防(早期対応)を行っている高齢者では6割近くが悪化していることがわかった」と、緊急事態宣言の影響により担当患者の約半数で認知機能の悪化が進んでいることが浮き彫りとなった。「また、緊急事態宣言下で、一次予防(発症予防)・二次予防(早期対応)・三次予防(進行予防)共に、医療・介護の負担が増えたと感じている学会員は7割以上を占めた。そして、負担増加の主な要因は、新型コロナウイルス感染症の予防対策によるものだった」と、コロナ対策のために認知症の医療・介護面の負担も増加していると指摘した。

 「第2回調査の結果では、在宅で何らかの認知症予防対策をとっている人の6割以上が自粛による生活の変化を感じていた。また、自粛生活によって7割以上の人が運動機能の低下を心配しており、さらに約5割の人が認知機能の低下を心配していた」と、在宅患者の多くが自粛生活によって運動機能と認知機能が低下する「コロナフレイル」に不安を感じていることがわかったという。「コロナ禍においては、新型コロナウイルス感染症の予防と認知症の予防を両立させることが重要となる。そこで、日本認知症予防学会では、コロナ禍での認知症予防対策として、『三密にならない場所で、1日30分以上の身体を動かす運動や体操をする』、『歌を歌う、本を読む、絵を描くなど、自分の好きな、楽しいことを行うことを日課にする』、『ソーシャルディスタンスを保つ、あるいはネットや電話を使って、家族や友人との会話を楽しむ』の3つを提言している」と、「コロナフレイル」を予防するための3つの取り組みをアドバイスしてくれた。

 最後に、オーラルフレイルの視点から「口と認知機能の関係」について、東京都健康長寿医療センター 歯科口腔外科部長の平野浩彦先生が説明した。「オーラルフレイルは、口に関する些細な衰えを放置することで、口腔機能や咀嚼機能の低下、さらには心身の機能低下にまでつながる“負の連鎖”を起こしてしまう概念となっている。オーラルフレイルの人は、口腔健常者に比べて、身体的フレイルの発症が2.4倍、サルコペニアの発症が2.1倍、要介護認定が2.4倍、総死亡リスクが2.1倍とされている」と、オーラルフレイルとはどのような状態なのかを解説。「また、オーラルフレイルにともなう、歯周病や咀嚼機能・口腔機能の低下、食欲低下による低栄養などが、認知症リスクを高めることがわかっている。そこで、オーラルフレイルの予防が認知機能の改善につながるのかを調べるため、歯科専門職の定期的な口腔管理による認知症重症化予防等に対する効果検証を行った。この結果、歯科専門職による定期的な口腔管理は、認知機能(注意機能)の改善効果が認められた」と、オーラルフレイルを予防することは認知機能の改善にもつながるのだと力説した。

 「80歳になっても自分の歯を20本残す『8020運動』によって、現代の高齢者は自分の歯を多く残している。それだけに、歯科医療者は認知症患者の歯の健康を維持し、オーラルフレイルを予防する義務があると感じている。2019年6月には、日本老年歯科医学会が『認知症の人の歯科治療ガイドライン』を作成しており、このガイドラインのさらなる普及に努めていきたい」と、認知症患者の暮らしを歯科医療から支えていくことの重要性を訴えた。

食から認知機能について考える会=https://www.shoku-ninchi.org/
一般社団法人日本認知症予防学会=http://ninchishou.jp/


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