医療最前線

遺伝性血管性浮腫診断コンソーシアムが5月16日から本格稼働、遺伝性血管性浮腫(HAE)と診断されずに症状に苦しむ患者を救うために早期診断および診断率の向上を目指す

2021.05.20 18:48 更新

 遺伝性血管性浮腫(Hereditary Angioedema。以下、HAE)と診断されずに症状に苦しむ患者を救うために適切な早期診断および診断率の向上を目指し、HAE領域における診療や課題解決に尽力している医師や患者団体を中心に2月8日に設立された一般社団法人遺伝性血管性浮腫診断コンソーシアム(略称:DISCOVERY)は、5月16日のHAE疾患啓発デーから本格稼働を開始した。

 HAEは、主に遺伝子の変異が原因で血液の中にあるC1インヒビター(C1エステラーゼインヒビターまたはC1インアクチベーターともいう)の低下およびその機能が低下する病気(稀にC1インヒビターの量、機能共に正常なタイプも存在する)。体のいたるところに、2~3日持続する腫れやむくみ(血管性浮腫という)を繰り返す。個人差があるが、10歳から20歳代に発症することが多く、皮膚(手足、顔面、生殖器など)が腫れた場合は、一見すると「じんま疹」に似ていることがあるが、強いかゆみをともなわないのが特徴とされている。特に、のどが腫れる場合は呼吸困難に陥り、生命の危険をきたす可能性があるという。一方、お腹(胃や腸)が腫れると腸閉塞と同様に嘔吐したり、強い痛みを感じることがあるとのこと。

 希少疾患は約7000種類存在するといわれており、日本において希少疾患は「対象患者数が本邦において5万人未満であること」と定義されている。その希少性ゆえに、希少疾患の疾患認知率は一般的に低く、また診断が極めて難しいなどの理由で、多くの希少疾患患者が適切な診断がなされず何年も苦しんでいるケースもあるという。

 希少疾患の1つであるHAEにおいても、同様の課題を抱えている。日本の有病率は5万人に1人といわれ、国内で診断・治療中の患者が430名程度いるという報告(大澤勲編:難病遺伝性血管性浮腫HAE医薬ジャーナル社)があり、推定される国内の患者数に対し20%にとどまっている。また、初発~診断までの平均期間(日本:13.8年(Ohsawa et.al., Ann Allergy Asthma Immunol, 2015)、欧米:10年未満(Banerji et al., Allergy Asthma Proc. 2018 May-Jun/Zanichelli et al., Allergy, Asthma&Clinical Immunology 2013)は、欧米に比べると大きなギャップがあるといわれている。

 日本におけるHAE診断率が低い理由としては、「政府の希少疾患に対する取り組み優先度が上がりにくい(生活習慣病やがんのほうが優先されやすい)」、「医師が日常診療で診察する機会が少なく、HAE疾患認知率が低い」、「HAEを専門的に治療できる医療機関がなく、疾患知識の深化や専門医等との連携が難しい」、「画一的な症状ではなく、全身に様々な症状を呈するため診断が難しい」、「製薬企業や医療機器企業の参入数も生活習慣病やがんと比べ少ない」、「一般生活者のHAE疾患認知率が低い」、「患者自身によって情報を発信していく機会が相対的に少ない」ことなどが指摘されている。

 現在までに医療従事者、患者団体、製薬企業などが活動を続けており、それらの活動はHAEの疾患認知率向上、適切な早期診断および診断率の向上に向けて一定の成果はありつつも、まだ改善余地があるといわれている。こうした中、HAE領域での診療や課題解決に尽力している医師や患者団体、製薬企業が、日々の活動の中でHAEの診断領域に課題を感じ、HAEと診断されずに症状に苦しんでいる患者を救うべく、DISCOVERYの設立に至った。DISCOVERYでは、日々HAE患者と向き合っている医療従事者、学会、患者団体、製薬企業などが協働し、それぞれの専門性や創造性を通じて、日本における適切な早期診断および診断率の向上を目指していく。

 また、DISCOVERYは、テクノロジーを積極的に活用した取り組みを展開していくために、IT企業にも参画してもらう予定。IT企業が保有・提供しているデジタルソリューションも活用しながら、HAEの診断領域における課題解決に取り組んでいく。

 DISCOVERYの今後の活動内容としては、HAEと診断されずに症状に苦しむ患者を救うために、3つのワーキンググループ(以下、WG)を立ち上げ、活動を推進していく。

 「医療データAI分析WG」では、電子カルテやレセプト、健診データ等を基に、HAEと診断されずに症状に苦しむ患者を特定するための診断支援人工知能(以下、AI)を構築し、そのAIを活用して日常診療での見落とし回避などの仕組みを構築・推進していく。

 「非専門医診断支援WG」では、HAE非専門医に対する知見提供に加え、HAE専門医コミュニティを構築し、テクノロジーを活用して非専門医が専門医に診断相談をする仕組みを形成・推進していく。

 「未診断患者向け疾患啓発WG」では、未診断患者が中心となって互いにコミュニケーションする仕組みの構築、およびこの仕組みを介した疾患啓発情報や自己診断支援ツールを提供する。

 HAEは、治療領域においては製薬企業からの治療薬上市が近年続いており、その環境は整ってきているという。しかし、治療法があるにもかかわらず、適切な診断がなされず苦しんでいる患者が多くいるのが実状であり、日本の診断率が低い現状からも、診断領域において、解決すべき課題が多くあるものと考えられる。

 これに対してDISCOVERYでは、3つのGWを通じ、診断率向上に向けた各施策を展開することにより、未診断で苦しんでいる患者を一人でも多く適切な診断に導き、適切な治療を受けることができるよう取り組んでいく。まずは、5年後に診断率70%を達成することを目指し邁進していく方針。なお、診断率70%は、武田薬品の「日本における希少疾患の課題」で、HAEの欧米における診断率に鑑み、達成目標に設定している。


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