医療最前線

日本メドトロニック、パーキンソン病の外科的治療「脳深部刺激療法『DBS』」の理解向上を目指しセミナーを開催、「DBS」は患者のQOLの改善が期待される治療法も認知向上が課題に

2021.04.12 17:09 更新

 日本メドトロニックは、パーキンソン病に対する「脳深部刺激療法」(DBS Deep Brain Stimulation、 以下「DBS」) に関するオンラインセミナーを4月2日に開催した。同セミナーでは、順天堂大学医学部附属順天堂医院 脳神経内科 教授 服部信孝先生が、「DBS」治療の現状や課題について講演を行った他、順天堂大学医学部附属練馬病院 脳神経内科 教授 下泰司先生が、「DBS」治療の展望について紹介した。また、パーキンソン病患者やその家族を対象に実施した、治療や症状に対する悩みなどの実態調査について発表した。

 パーキンソン病は脳のドパミン神経が減少していく進行性変性疾患。発症率は1000人に1~1.5人(公益財団法人難病医学研究財団「難病情報センター」)といわれ、高齢になるほど発症率は高くなり、60歳以上では100人に1人といわれ、国の難病に指定されている。パーキンソン病の治療は薬物、非薬物治療があり、薬物治療が一般的だという。しかし、症状が進むにつれて薬の効果減弱、薬の増量による副作用などが生じ、症状のコントロールが困難になり、患者のQOL(Quality Of Life:生活の質)が低下することも少なくないとのこと。こうした患者のQOLを改善する治療法として、「DBS(DBSは小さなペースメーカのような機器を前胸部皮下に植込み、脳深部に留置した電極から微弱な電気刺激を送ることによって、手足のふるえや体の動かしにくさの改善を目的とする外科治療)」があるのだという。日本では約20年の実績があるが、患者やその家族への「DBS」の認知度はまだまだ低いのが現状とのこと。そこで、日本メドトロニックでは「DBS治療のこれまでと、これから」を認識してもらい、パーキンソン病患者とその家族に適切な情報を届けたいと考えセミナーを開催した。

 セミナーでは、日本メドトロニック ニューロモデュレーションの佐南拓郎ダイレクターが同社の概要および「パーキンソン病患者のQOLに関するアンケート」の調査結果を発表した。「当社のミッションは、生体工学技術を応用し、人々の痛みをやわらげ、健康を回復し、生命を延ばす医療機器の研究開発、製造、販売を通じて人類の福祉に貢献することであり、医療分野のグローバルリーダーとして多くの人々の健康回復に貢献している」と、同社の事業について紹介。「循環器領域、糖尿病領域、外科領域と低侵襲治療・診断領域、神経科学領域という4つの疾患治療領域に対し、医療機器を提供している」と、同社の事業領域について解説する。「電気刺激を用いて神経系を調整し、QOLを向上するニューロモデュレーションという治療法があり、当社は電極リード、神経刺激装置、医師用および患者用プログラマの提供を行っている」と、パーキンソン病、本態性振戦、ジストニア、慢性疼痛、重度痙縮、過活動膀胱や便失禁といった排泄機能障害などに用いられる治療法のデバイス開発を行っているという。「『DBS』は脳深部に電気刺激を与え、薬物療法で十分に効果が得られないパーキンソン病等の運動障害を軽減する治療法で、1987年に臨床試験を開始。2000年に国内で承認された。2015年には条件付MRIに対応し、日本国内では9000名以上の患者が『DBS』を実施している」と、「DBS」は、20年も前からパーキンソン病患者に用いられる治療法なのだと教えてくれた。

 「今回当社では、パーキンソン病患者(家族含む)の治療実態および治療満足度などの現状を調査するべく、2月26日~3月15日の期間、212名のパーキンソン病と診断された人、その家族に対し、インターネットで調査した」と、調査概要について紹介。「治療法は薬物療法が98.1%で、薬剤服用種類は3種類以上が半数を超えた。また1日の薬剤服用回数は、3回以上で80%を超えた」と、治療は薬物療法が主で、複数種類の薬剤を1日3回以上服用していることがわかった。「一方、デバイス補助療法で治療している患者は約1割ほどだった」と、ニューロモデュレーションという治療法を用いている患者は少数派であることが明らかとなった。「パーキンソン病の症状で困っていることは、『歩行困難(71.2%)』、『筋肉がこわばりスムーズに動かせない(60.4%)』など、運動症状に対する悩みが多く挙げられた。治療を続けていく上での悩みとして、『身の回りのことが思うようにできない(52.8%)』、『外出するのが億劫になっている(47.6%)』が挙がった」と、回答結果を発表した。

 「また、72.2%の患者がパーキンソン病を発症したことで仕事や趣味を『諦めざるを得なかった経験がある』と回答。32.5%の人が治療を始めて以前に諦めていたことを再開、もしくは新しい趣味を始めたと回答した」と、3人に1人の患者しか、以前諦めてしまったことを再開したり、新しい挑戦を行ったりしていないことが浮き彫りとなった。

 「『DBS』について『理解している』人は36.5%にとどまり、半数以上が『DBS』についてあまり理解していない、または聞いたことがないという現状が明らかになった。また、『DBS』に対するイメージとしては『自分(患者本人)に合っているかどうか分からない(56.6%)』、『手術に漠然と不安を感じる(51.4%)』など、詳しい情報は知らないものの、なんとなく不安を感じている人が多いという傾向が見られた」と、「DBS」の認知は低く、イメージについても不安を感じる治療法だと思っているものとみられる。こうした不安を払拭するべく、同社では「4月11日に世界パーキンソン病デー ウェブ市民公開講座を実施する。そして、パーキンソン病患者それぞれの“自分らしさ”を引き出す治療が『DBS』なのだということを訴求していく」と、「DBS」を正しく理解してもらうための活動を今後も積極的に行っていくと話していた。

 次に、服部先生が「日本におけるDBS治療の現状や課題について」講演を行った。「パーキンソン病とは、振戦(ふるえ)、筋固縮、無動、姿勢反射障害を主症状とし、高齢になるほど発症頻度は上がる」と、加齢が最も重要な因子であると解説する。「MPTPという薬剤が開発され、パーキンソン病にパラダイムシフトを生んだ」と、MPTPを用いた治療が最も汎用されてきたと説明する。「さらなる研究の結果、レム睡眠行動異常症は疾患のリスクであり、重要な前段階症状であることがわかった。また、神経炎症を画像化すると早期現象として捉えることができるようになった」と、パーキンソン病の初期の兆候もわかるようになってきたという。「そして診断基準として、寡動が存在し静止時振戦か筋強剛のうち少なくとも一つをともなうことが絶対条件となる。そして、臨床的確定診断として、ドパミン補充療法で有効、ドパ誘導性ジスキネジアがある、静止時振戦がある、嗅覚障害とMIBG心筋シンチの異常--の中の2つを満たす」と、共通した診断基準を用いて早期発見が必要なのだと述べていた。

 「パーキンソン病の進行による問題点としては、早期は薬が適切に効いている状態が長いのだが、中期になると、ウェアリング・オフが発現し、すぐに薬が効いていない状態となる。進行期には、薬が過剰な状態としてジスキネジアが発現する」と、進行状態で薬の効きに変化が見られるとのこと。「パーキンソン病による運動症状は抗パーキンソン病薬で改善する」と、薬物療法を用いて治療を行うのだと話していた。「しかし、薬物療法にも限界がある」と、進行期には薬が効いていない状態が見られるようになると説明する。「この改善策として『DBS』が用いられるのだが、進行期の患者において、薬物療法のみと『DBS』併用で比較した結果、QOLが改善し、有効性も高く、日常生活動作、情緒的健康、スティグマおよび身体的苦痛のスコアも改善した」と、運動機能、QOLともに有意に改善したという。「術後5年時点での薬効オフ時のスコアも術前に比べて改善していた」と、「DBS」併用患者を5年間追跡した結果、引き続き改善効果が見られたと紹介していた。

 「『DBS』の手術、機器にともなう合併症は、継続的な合併はほとんどなく、感染、出血が最も多い。その他神経症状、精神症状などへの影響については、うつに対する効果は様々な報告があり、一定したものはない。認知機能への影響に関しても様々な報告があり、結論付けることは難しい」との見解を示す。「『DBS』の主な適応については、特発性のパーキンソン病であること。日内変動、ジスキネジアが発現している。副作用によって増薬が困難である。明らかなうつや認知症、精神症状がないこと」を挙げていた。

 下先生は、「DBS治療の展望について」説明した。「『DBS』は脳深部刺激療法とされ、視床下核、淡蒼球内節、視床(腹内側核)に電極を挿入する」と、脳に電気を流し刺激を与える治療法なのだと解説する。「初期の患者は1日約3回の薬で普通に近い生活ができる状態にあるが、進行期の患者は、動ける状態がほとんどなく、薬が効くとジスキネジアとなり、切れると動けなくなる。こうした進行期の患者に『DBS』を用いることで、動ける状態を維持させる」と、「DBS」で期待される治療効果について言及した。

 「『DBS』では、定位脳手術装置を取り付けて、ターゲットの位置を確認する。そしてリードを挿入し、テスト刺激を行う。テストで問題がなければ、神経刺激装置を植込む。退院後、外来で体外的に刺激を調整する。薬剤調整も行う」と、「DBS」手術の流れを解説。「『DBS』の機器については、様々な電極があり、電池も充電式や非充電式。軽さやサイズ、MRIが可能か否か。刺激方法は何か、など様々な種類を有する」と、デバイスの種類も多岐にわたるとのこと。「刺激の強さや頻度、刺激幅、刺激する場所など体外から医師用プログラマで調節できる」と、刺激の強度調節も可能なのだと教えてくれた。

 「ただし、持続的に電流を流すことによって、刺激による副作用が見られたり、患者の症状変化(日内変動)に合わせた細かい調整ができない。また、非充電式電池の消耗の問題(3~5年に1回の電池交換)がある」と、「DBS」に対する課題も提言する。「薬が効いていない時には異常な脳内神経細胞活動が出現し、症状が出現する。薬が効いている時は異常な脳内神経細胞活動は消失し、症状も改善する。『DBS』は異常な神経細胞活動を電流によって消去し、症状を改善させているとされる」と、薬が効いていない時だけ電流を流す技術が開発されているのだという。「一人ひとりの脳神経細胞活動を電極で感知し、それをもとに刺激を与えることが可能となる。患者一人ひとりの状況に合わせたテーラーメイドの刺激が行える可能性がある」と、脳内バイオマーカーを利用した新たな「DBS」治療が期待されているのだと語っていた。

日本メドトロニック=https://www.medtronic.com/jp-ja/


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