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東京藝術大学、元仏文化大臣のジャック・ラング氏が大林賞を受賞したことを記念し講演会&シンポジウムを開催、都市と文化をテーマに新しい時代を見据えた文化政策の重要性を問う

2018.12.17 21:09 更新

 東京藝術大学は、12月14日に、元仏文化大臣のジャック・ラング氏の大林賞受賞を記念し、講演会とシンポジウムを開催した。ラング氏の長年にわたるその先進的な文化政策と地方創生への取り組みが、仏国の都市改革やそこに住む人々の暮らしに多大な影響を与え続けてきた功績が評価され、今回大林賞の受賞に至った。現在、我が国においても地方文化の再活性化を基軸とする地方創生への期待が膨らんでいる。また同時に国のGDP向上における文化経済の貢献力が注目されている。そのような状況の中、もともと文化的に影響力の高い仏国を舞台に、その時代に合わせた革新と法制の刷新、首都および地方都市を結んだ拠点の体系的組織化という前人未到な業績を残し、今なおその活動を国際的に精力的に持続しているラング氏に、都市と文化をテーマに新しい時代を見据えた文化政策の重要性を問い、東京藝術大学の教授や出身アーティストを交えたパネルディスカッションを行った。

 2年に一度、都市の将来像を追求し、実現性に富むヴィジョンや指標を示し、あるいはそれを実現してきた人物を顕彰する大林賞は、今回第10回目を迎えた。この記念すべき受賞者には、仏国の都市と文化の革新に大きく貢献するとともにその指針となる政策およびモデルを確立し、さらに文化の地方分権、パリのルーブル美術館を起点とする文化施設を中心としたグラン・トラボー事業の総指揮も取ったジャック・ラング氏が選ばれた。都市改造と地方創生のパイオニアであるラング氏を、今回東京藝術大学に招き、「今、世界の文化政策に求められるもの」と題した、記念講演&シンポジウムを開催した。

 同会のコーディネーターを務めた東京藝術大学特任教授で美術評論家の伊東順二氏は、「日本における地方活性化のカギは、文化の発展および向上、保存が重要になると考える。仏のミッテラン政権下で、パリの都市文化を一新するとともに文化の地方分権を指揮し、地方文化の発信を促進させるとともに文化の地域経済貢献という視点を明確にされたラング氏を招き、日本の都市と文化に対する問題提起を行ってもらうことで、世界に日本文化を発信していくためのヒントが得られるものと期待している」と、都市と文化をテーマに新しい時代を見据えた文化政策の重要性を、同会で問いていきたいと挨拶した。

 記念講演&シンポジウムを前に、大林賞について大林財団の大林剛郎理事長が挨拶した。「当財団は、今年9月に設立20周年を迎えた。この間、奨学金給付事業の開始や制作助成プログラムの開始など、都市の研究や顕彰事業を行うことで、都市の在り方を提言し、都市にいる人間を考える活動を行ってきた。今回大林賞を受賞されたラング氏は、先進的な文化政策と仏の都市政策でそこに暮らす人々に対して文化として支援するなど、都市と文化の革新的な提案を行ってきた。さらには、文化の地方分権を提言し、文化の地域経済に対して多大なる貢献を行ってきた。ラング氏の受賞は、日本の街づくりや地方創生に関わる人々に有益なものになると確信している」と、ラング氏の受賞を祝福すると共に、同氏の業績をたどることで、我が国の文化政策や文化行政、引いては都市に住む人々の豊かな社会の実現のためにたくさんの指標を提案してくれることを期待していた。

 そして、ジャック・ラング氏による基調講演が行われた。「仏は国家が文化芸術に深く関わることを基本としており、この関わりはミッテラン政権下時代に加速した。一方、日本では、国家が文化芸術に関わることに慎重であったものの、民間や財団などが深く関わることで、独自の発展を遂げてきた」と、仏国と日本の文化芸術に対する国家の関わり方の違いについて言及。「金沢市と姉妹都市でもある仏のナンシーで、ナンシー演劇祭を創出し、世界の先進的な演劇を紹介してきたが、寺山修司氏や鈴木忠志氏の作品をはじめ日本の文化芸術にも強い影響を与えてきた」と、ラング氏と日本との関わりについても紹介してくれた。「その後、ミッテラン政権が文化省を復活した折に、文化大臣に就任。文化予算の倍増を進言するなどして、ルーブル美術館の改築や国立図書館の創設、地方の美術館や博物館を改修してきた」と、首都パリの都市文化を一新するとともに文化の地方分権を指揮し、地方文化の発信を促進させてきたのだという。「こうした補足的な取り組みをしていくことで、これまで眠っていた地方都市が目を覚まし、国の政策にフォローの風となった」と、文化の地域経済貢献が国家の政策を推進させていったのだと強調する。「文化への投資ほど素晴らしいものはないと考えている。投資によって、幸福の実現や自己実現、経済発展の実現などにもつながっていく。日本にも、このような例はあるのではないかと思う」と、文化に対する投資によって実現できた事例をもとに、我が国においても文化政策の礎を積み重ねていってほしいと訴えた。

 次に、伊東氏がモデレーターを務めるパネルディスカッションを開催。ジャック・ラング氏と共に、東京藝術大学特任教授で東京大学名誉教授の青柳正規氏、建築家・東京大学教授で東京藝術大学客員教授の隈研吾氏、作曲家で東京藝術大学特任教授の千住明氏、アーティストの舘鼻則孝氏、日本画家で東京藝術大学名誉教授の宮廻正明氏が登壇し、参加者がそれぞれラング氏に質問する形式で会がスタートした。

 隈氏は、「仏の美術館の設計を依頼された際に、普通の美術館にはない展示ができるようにと頼まれた。一方、日本では既存の概念にとらわれたコンサバなものを依頼されるケースがほとんどである。ある意味革新的な文化施設を我が国で創り出していくには何が必要か」と質問。これに対しラング氏は、「日本にも素晴らしい建築物は数多く存在する。日本の指導者には大胆さに欠ける面はあるようだが、私が関わったルーブル美術館に設置したガラスのピラミッドについては、多くの反対や中傷を受けた。しかし、それでも実現させると決心した。こうした選択には、大胆さと勇気が必要であると思っている」と、強い信念を持ち、それを実行する想いがあれば、指導者たちの考えを覆せるのではないかとアドバイスしていた。

 国立西洋美術館館長や文化庁長官なども務める青柳氏は、ラング氏の境遇と重なる部分があるだけに、政治の世界に身を投じた時の難しさを指摘。文化庁長官になる前と今の状況の自身の対応にもどかしさすら感じているという。それだけに、政府の中に入り、改革を実行に移したラング氏に対し、「日本は国家予算の0.1%しか文化予算がない。一方、仏国は1%を超える。この差はどこにあると思うか」と問うと、「日本と仏ではシステムが異なる。私が在任中に行ったことは、文化予算を維持するだけでなく、増加を訴えた。増加することで、得られる未来を国民にしっかり指し示すことを行ってきた」と、文化予算を増やすことで、国民が得られる利益を明確に指し示すことができたからこそ、国家予算の1%を超える財源が文化・芸術に費やされているのだと述べていた。

 宮廻氏は、「我が国においても、ラング氏のようにこれまでとは異なる斬新な政策を打ち出していかなければならない時代に突入したと考えている。それだけに、革新的な改革を実現できた要因は何か教えてほしい」と質問。これに対しラング氏は、「強い信念を持つことであると考えている。私は、新しい才能を発掘することに情熱を燃やしている。ナンシー演劇祭においても、仏で無名の劇団員を呼ぶことで、新たな才能を発掘することができた」と、自身の信念を貫くことが革新的な改革の実現につながったのだと分析していた。

 千住氏は、「才能を見出すための登竜門はどこにあると思うか。また学生たちが社会に飛び込んでいくための施策みたいなものはあるか」と質問。これに対しラング氏は、「様々な方法が考えられる。たとえば、公共のラジオを活用したり、海外の音楽家が一同に集まることができる施設を活用することなどが想定される。また、若き才能が仏国を目指す理由として、フランス人には異国から来たものに好奇心を抱く傾向にある。それだけに、仏国で新たな才能が発掘されやすいのかもしれない」と、フランス人の気質にも起因しているのではないかと話していた。

 舘鼻氏は、「日本の伝統工芸士と仕事をする機会も多いのだが、様々な制約を理由にイノベーションを起こすことができない。一方、仏では若手にも積極的に新しいことにチャレンジさせる土壌がある。この違いはどこにあるのか」と質問すると、ラング氏は、「伝統芸能で新しいことができるというメンタリティーを仏では持ち合わせている。イノベーションやクリエーションは、過去のものとは無関係ではないと思っている」と、伝統芸能を過去のものととらえるのではなく、新しい発見を生み出すひとつの素材でもありえるのだということを、我が国においても多くの人が理解する必要があるのではないかと話していた。

 最後に伊東氏は、「我が国における文化芸術について様々な人がドアを開こうとしている。文化芸術のドアは開くまでは大変だが、一度開かれてしまうと、閉じられることがないドアであると考えている。それだけに、文化芸術のドアを開いて素晴らしい世界を切り開いていくことが重要であると強く感じた」と、ラング氏の助言を通じて、文化芸能の未来をこじ開けていくことの必要性を再認識していた。

東京藝術大学=https://www.geidai.ac.jp/
大林財団=http://www.obayashifoundation.org/


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