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辻調理師専門学校と立教大学、「観光の新たな役割・食科学と観光」がテーマの公開シンポジウムを開催、食や観光・農業に係る社会環境整備や人材育成などの必要性を提言

2017.12.06 19:59 更新

 辻調理師専門学校は、立教大学観光研究所との共催で、「観光の新たな役割・食科学と観光」というテーマによる公開シンポジウムを、12月5日に立教大学 池袋キャンパスで開催した。当日は、伊の食科学大学を卒業し、Genuine Education Networkを設立、2015年のミラノ万博では日本館認定食文化講義を主催した齋藤由佳子代表や辻調理師専門学校産学連携教育推進の尾藤環室長、経済産業省商務情報政策局サービス政策課の阿部尚行課長補佐が講演を行い、食科学と観光の今後の関係性について議論した。

 食と観光の密接な関係は広く知らされてきたところである。一方で、土地に根差す食材や食文化を見直し、食の多様性を堅持しようとする「スローフード」と呼ばれる運動がイタリアで発祥し、そうした考えが徐々に世界に伝播している。食材の産地と消費者、さらには料理人や研究者を結び付け、食の知恵と技術の交流を促す役割が観光に新たに期待されるようになってきている。今回の講演会では、食科学(Gastronomic Science)と呼ばれる近年注目されるこの分野の内容を具体的に整理しながら、観光が食の新しい運動から何を学ぶべきなのか、一方で食の分野では観光と今後どのような関係を構築するのか、食というフィールドにおける産学連携の新たな枠組みを構想しながら、食科学と観光の今後の関係性について議論した。

 講演会の開催を前に、立教大学観光学部特任教授のピーター・フックス先生が挨拶した。「現在、世界中の様々な料理を楽しむことができる、国境なき料理が当たり前の時代になっている」と、日本にいながら世界中の料理を楽しむことができる時代になったと説明する。「一方、観光産業は、最も歴史の古い産業である。たとえば、巡礼のために、何十kmも歩いた後、暗くなってもう歩けなくなったところに宿が誕生した。そこで、郷土の料理を振る舞ってきた」と、江戸を起点に宿場町が20kmごとに発達してきたことも観光産業に結び付いているのだと説く。「このように、私たちにはルーツがあり、それを探求していくことで、新たな発見に結びつくのではないかと考えている」と、食科学や観光の歴史を探っていくことで、これらの関係性に関するヒントが得られるのではないかと話していた。

 そして、Genuine Education Networkの齋藤代表が「食文化と観光が実現する持続可能な地域の価値」と題した講演を行った。「伊のPollenzoという世界遺産の村に食科学大学が設立された。この大学には多国籍の生徒が集い、文理横断で食を学んでいる。当社は、この大学から生まれたベンチャー企業で、本物の日本食を学ぶ旅を授業化し、食文化ツアーなどを主催している」と、会社について紹介。「食文化ツアーの場としても訪れている山形県鶴岡市は、日本で唯一のユネスコ食文化創造都市となっている。しかし、鶴岡市の人々は、外国人を受け入れることに不安を抱えており、それを取り除くことが大切であるとも感じている。その一方で、伊のユネスコ食文化創造都市アルバ市では、白トリュフが有名な点をアピールするべく、白トリュフを採るためのハンターに同行するツアーを行ったり、郷土料理教室や農家民宿など、積極的に外部の人を受け入れる活動を行ってる」と、日本と伊のユネスコ食文化創造都市の対応の違いについて言及。「食文化地域資源を地域資本化していくことがポイントになるのではないかと感じている。それには、地域資源をキュレートし、人材の育成も必要になってくる。どこにでもある文化を観光資源として活かしていくことが大切となる」と、地域に存在する独自文化を観光資源化するためのイノベーションや人材育成が今後の課題であると提言していた。

 辻調理師専門学校産学連携教育推進の尾藤室長は、「美食学(ガストロミー)とSDGs(サスティナブル)」と題した講演を行った。「訪日外国人は現在2000万人となっており、これを倍の4000万人にすることを政府は目標に掲げている。しかし、人材難という問題から、この目標をクリアすることは困難であると考えている」と、今後労働力が低下していく中で、食文化や観光・農業を魅力ある職業にしていかない限りは、この分野に従事する人は減ってしまうと懸念する。「この課題を克服するには、外国人就労者の門を開く必要がある」と、訪日外国人相手の仕事であれば、日本人でなくてもよいのではないかと説明する。「一方、食の分野に関しては、和食はユネスコ無形文化遺産に登録されたのだが、この意味をしっかり把握している人は少ない。無形文化ということは、何もしていかなければなくなってしまうからこそ、世界遺産として登録されたということを今一度認識する必要がある」と、和食の文化を継承していくことが重要になってくるのだと訴える。「当校では、留学生の半数がお菓子の学校に入学している。この留学生のほとんどが、フランス菓子を学びに来たと答える」と、日本の菓子を学ぶために来日している学生は少ないのだと警鐘を鳴らす。「国際的に評価されているレストランは、国産のものを扱っている。それだけに日本らしい食の楽しみ方をアピールしていくことが大切だ」と、日本の食文化を海外に知らしめるためには、日本らしさを打ち出していくことが重要なのだと力説する。「そのためにも、食と農業と観光が連携する必要がある。この連携を担う機関として、教育の役割は大きいいと感じている」と、食と観光、農業がしっかり手を結び、新たな人材を育成してくことの重要性を説いていた。

 経済産業省商務情報政策局サービス政策課の阿部課長補佐は、「食・観光産業の生産性向上と人材育成に向けて」と題した講演を行った。「日本の産業は、決して製造業が中心ではなく、就業人口では生活に密着した産業に従事する人の方が多い」と、製造国といわれることが多いが、決して製造業が産業の大半を占めているわけではないのだと指摘する。「日本はバブル崩壊後、労働人口も減少し、GDPも過去20年間、横ばい傾向が続いている。しかし、これは諸外国に比べて決して悪い数値ではない」と、労働人口が減少している中で、横ばい傾向を維持している現状は、逆に健闘しているのではないかと説明する。「日本のGDPが上昇していかない最大の理由は、デフレによって、モノの価値が上がっていかない傾向にあるからだと思われる」と、安い商品が売れていくという時代からの脱却を目指すべく、新しいサービスを創造していく必要があるのではないかと訴える。「そうした中、訪日外国人が増えており、これに付随する宿泊や飲食サービス業に注目が集まっているが、賃金は他の産業に比べて低いのが現状だ。また、訪日外国人の数は増えているものの、日本ではあまりお金を使っていない現状もある。訪日外国人を4000万人にする目標が掲げられているが、1人あたりの使用金額を倍に増やす必要があるのではないかと思われる」と、単価アップを図っていくことの方が、経済的インパクトは大きいのだと指摘する。「こうした点を農林水産省とも議論していくのだが、その際のキーワードに挙がるのが、食である。そして、多方面から食文化を考察する人材育成が必要であると思う」と、観光や食科学に力を入れる大学などを紹介しながら、食のイノベーション人材育成の重要性を訴えた。

 この後、立教大学観光学部教授の庄司貴行先生が案内役を務め、齋藤代表、尾藤室長、阿部課長補佐によるパネルディスカッションが行われた。庄司先生の「今後、食が安定的に供給できる安全性についてどう思うか」という問いに対し、齋藤代表は、「食の安全性が消費者中心に語られ過ぎている。たとえば、伊の食文化大学の学生に、有機野菜を選ぶ理由について問うと、生産者のためになるから選ぶと答える学生も多くいる。この生産者目線についても重視していく必要がある」と話していた。尾藤室長は、「道の駅の直売所がこれだけ発展するとは誰も想像していなかった。また、シェフも積極的に農地へ出向くようになっている。こうした流れはよいと思っている」と、市場での生産者連携が崩れたために、産地偽装などが行われた現状を考えると、産地のものを直接仕入れるという流れは必然であったのではないかと述べていた。阿部課長補佐は、「自分が口に入れるものを見える化することがサスティナブルのスタートであると思う。食の安全を超えて、食の管理をしっかりしていかなければならない」と、話していた。

 最後に、立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授の野崎俊一先生が閉会の挨拶を行った。「2ヵ月に1回、専門家が集い観光に関するプロジェクトを行っており、分科会は2つも稼働している。これらの分科会では、外部の知見を融合するべく、シンポジウムなどを開催していく予定だ。今回はその第一回目として開催した。このシンポジウムが食文化とツーリズムの研究の第一歩になっていくと思っている」と、様々な研究機関や団体などと連携しながら、食科学と観光に関する知見の収集と研究に努めるプロジェクトを推進していきたいと述べていた。

立教大学=https://www.rikkyo.ac.jp
辻調理師専門学校=http://www.tsuji.ac.jp/college/chorishi/




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