医療最前線

製薬協、薬剤耐性菌(AMR)アクションファンドの設立を受けセミナーを開催、新規抗菌薬が継続的に上市されるサイクルの構築へ

2020.07.15 22:03 更新

 薬剤耐性菌(AMR)アクションファンドの設立を受けて、日本製薬工業協会は7月10日、「新型コロナウイルス感染拡大の教訓と薬剤耐性(AMR)への備え」をテーマにセミナーを開催した。セミナーでは、国立国際医療研究センターの大曲貴夫先生が基調講演を行った他、AMRアクションファンド設立の目的やAMR治療薬の創製に必要な取り組みなどについて発表した。

 20社以上の大手バイオ製薬企業は、薬剤耐性菌(AMR)アクションファンドを設立したことを7月9日に発表した。同ファンドは、2030年までに新規抗菌薬を2~4剤製品化し、患者に届けることを目指す画期的な取り組みだ。薬剤耐性感染症(薬剤耐性、AMR:Antimicrobial Resistance)の急増によって、新規抗菌薬の創製が急務となっている。今回参画の企業は、最も耐性が強い細菌や、生命を脅かす感染症に対する革新的な抗菌薬の臨床研究を支援するために、総額で10億米ドルの投資を行うとのこと。そして、同ファンドを通じ、慈善団体・開発銀行・国際機関と協力し、抗菌薬の開発を強化・加速するという。公衆衛生上の緊急ニーズに特化した同ファンドは、研究開発に必要な財源に加え、バイオテクノロジー企業が新規抗菌薬を患者に届ける上で必要な技術支援を行うとしている。

 AMRという迫りくる世界的な脅威は、死亡者数および経済的コストの点において、新型コロナウイルス感染症による被害をも圧倒する可能性があるとされている。悲劇的にも、新型コロナウイルス感染症による死亡者数は増加し続けているが、AMRに起因する死亡者数は年間70万人にのぼる。このまま対策が何も取られなければ、2050年までに全世界で年間1000万人もの命がAMRによって奪われると推定されている。

 同新ファンドの設立団体の一員である国際製薬団体連合(IFPMA)のトーマス・クエニ事務局長は、ビデオメッセージで、「AMRは、新型コロナウイルス感染症と比べ、予測可能であり、防ぐことができる危機となっている。私たちは協力して、パイプラインを再構築し、研究所で生み出される最も有望で革新的な抗菌薬を確実に患者に届くようにしなければならない。薬剤耐性菌(AMR)アクションファンドは、世界的な公衆衛生上の脅威に対応するための製薬業界による協業イニシアチブとして、これまでで最も大規模で意欲的な取り組みのひとつとなる」と、コメントしていた。

 基調講演を行った大曲先生は、「日本では毎年8000人以上が耐性菌感染症で亡くなっている」と、多くの人が耐性菌感染症で命を落としているのだという。「WHOは、新型コロナウイルス感染症パンデミックの間の抗菌薬の不適切な使用によって、この傾向がさらに高まることを懸念している」と、新型コロナウイルス感染症の患者および感染が疑われる患者には、臨床的に抗生物質治療や予防を行うべきとの指示がない限り、抗生物質治療や予防を行わないようガイダンスを発表していると教えてくれた。「薬剤耐性菌による感染症については脅威である。しかし耐性菌はすでに特定されている。耐性の機序も明確で、事前の対処ができる」と、新型コロナウイルス感染症とは異なり、薬剤耐性治療薬の研究開発は準備が可能であると指摘していた。

 AMRアクションファンド設立の目的について、塩野義製薬の社長でIFPMAの手代木功副会長が説明した。「耐性菌問題は人命だけでなく、経済的損失も含む甚大な被害を社会に及ぼすが、その有効な対策である新規の抗菌薬の開発は停滞している。その理由として、開発に膨大な費用がかかる他、開発してもビジネスとして持続可能な市場がないことが挙げられる。こうした議題に対し、製薬業界が率先して取り組む枠組みとして、ファンドを立ち上げた」と、設立の背景について紹介する。「ファンドは、IFPMAの有志製薬企業による新たな抗菌薬候補への投資、並びに開発支援を行うグローバルイニシアティブをとり、日本からは、エーザイ、塩野義製薬、第一三共、武田薬品工業、中外製薬の5社が参加する他、合計23社が参画する。そして参画製薬企業から資金として10憶ドルが拠出される」と、ファンドの概要について説明した。

 「今回、投資のみならず、業界が有するリソースや専門的な知識・技術の提供によって、新規抗菌薬の研究開発を強化、加速し、早期に製品化する」と、10年後までに2~4剤を市場に投入したいとのこと。「抗菌薬の研究開発が持続的に行われるよう、必要な政策の実現を含む持続可能なエコシステムを構築していく」と、ファンドの目的について語った。「投資や支援の対象は、WHOやCDCが開発の必要性を強く訴える耐性菌に有効な“新規”の抗菌薬の開発に取り組むバイオベンチャーとし、複数の世界的な専門家で構成される独立科学諮問委員会の評価に基づき選定する」と、投資・支援の対象やその選定について発表した。

 AMR治療薬の創製に必要な取り組みについて、製薬協の中山讓治会長が説明した。「新型コロナウイルス感染症は、政治、経済、テクノロジー、企業・働き方、社会、医療などに対し、地球規模の社会課題を突き付けた」と、世界の経済活動や社会活動を麻痺させ、重大な社会問題へと発展したと訴える。「そして、産学官が連携し、新型コロナウイルス感染症の治療薬やワクチンの研究開発を加速させている」と、2000億円超の補正予算で生産体制の整備や効率的なワクチン接種の基礎整備等も行われていると話す。「一方、既存薬に抵抗を示すAMRが重要な課題であると認識されているが、新薬開発は進んでいない」と、予測可能でありながらも使用量は限定されているためAMRの新規治療薬の研究開発が進んでいないのだと語気を強める。

 「新規抗菌薬を開発しても適正使用が必要で、事業として見ると開発投資を回収できない。これによって研究者や専門家が減り、研究開発力が低下して、新しい抗菌薬がますます生まれない」と、AMR治療薬を取り巻く問題について警鐘を鳴らす。「抗菌薬の新規承認数は年々減少していた。その中で、GAIN法による審査機関の短縮や市場独占期間の5年延長、IMI等の開発費支援により、一時的に承認数は上昇した。しかし、新規抗菌薬の承認を受けた企業が昨年相次いで倒産した。新規開発に成功した企業が投資に見合った利益を確保できるよう、新たなプル型インセンティブなどに必要な政府施策が必須となる」と、抜本的な改革が必要なのだと力説する。「そこで、世界の製薬企業20社以上から、約10憶ドルの出資を募る。WHO、欧州投資銀行、ウェルカム・トラスト等の業界外の支援も得た、製薬業界主導型の共同プラットフォームとすることで、ベンチャー企業等に対し、投資および専門知識の提供を行い、今後10年間で2~4品目の新規抗菌薬の上市を目指す」と、現状打破に向けてAMRアクションファンドを設立したのだと訴えた。「AMRアクションファンドでは、新規抗菌薬が継続的に上市されるサイクルを構築する。そのためにプル型インセンティブの導入等も行う」と、製造販売承認取得報奨制度やサブスクリプション・モデル、事前買取り保証制度などを検討していく必要があると呼びかけた。

日本製薬工業協会=http://www.jpma.or.jp/


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