医療最前線

"KAIGO×creative"がつくる福祉の未来とは? グッドデザイン賞を受賞した熊本発の認知症カフェ「as a cafe」をプロデュースしたマンジョット・ベディ氏が想いを語る

2019.01.31 14:54 更新

 「豊かな高齢社会を、熊本から。」をコンセプトに、熊本県のグループホーム「あやの里」で展開している常設型認知症カフェ「as a cafe」が、グッドデザイン賞2018を受賞した。昨年12月21日には、グッドデザイン賞受賞デザインを知るツアーの一環として、「“KAIGO×creative”がつくる未来」トークセッションが、「as a cafe」で開催された。今回、このトークセッションに合わせて、プロデュースを手掛けた広告クリエイターのマンジョット・ベディ氏に、「as a cafe」に込めた想いや、“KAIGO×creative”が切り拓く福祉の未来について語ってもらった。

 認知症カフェは、厚生労働省が2015年に策定した認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)にて、認知症地域支援推進員の役割として明記されたことによって爆発的に拡大した。全国に2253件(平成27年度末厚労省発表資料)が設置されているが、その多くは施設や役所のスペースを利用した月一回程度の実施形態を取っている。これに対して、今回グッドデザイン賞2018を受賞した「as a cafe」は、介護カフェ全体で0.1%しかない毎日開催を可能にする常設型であり、患者やその家族だけでなく、地域の人々も気軽に立ち寄れる開かれた空間を提供している。介護にクリエイティブを加えることで、患者の自立心や主体性を引き出していく唯一無二の認知症カフェとなっている。

 この「as a cafe」のプロデュースを担ったのが、広告業界の第一線で活躍するインド人クリエイターのマンジョット・ベディ氏(株式会社just on time代表)だ。有名ブランドのCMを数多く制作してきた実績を持ち、日本のみならず、世界各地に活躍の場を広げている。そんな、広告業界で活躍するマンジョット氏が、なぜ介護に着目し、認知症カフェをプロデュースするに至ったのか。

 「私が普段携わる広告は、商品やサービスを受け取った人の喜んだ顔を直接見ることができない。そこで、いろいろな現場を訪れ、様々な業界の方の話を伺うようにしている。ある時この熊本県のグループホーム『あやの里』で、介護の現場で活躍する人々と出会う機会を得てお話しをすると、外から見ていたイメージとのギャップに衝撃を受けた」と、介護業界の実状と課題に直面したという。「日本では介護が社会問題と捉えられ、『大変な仕事』と言われるなどネガティブなイメージがあることを感じている。とくに認知症ケアに対しては顕著だ。実際に現場の人手不足という深刻な問題と直面している。しかし、『あやの里』では、介護職の皆さんも施設利用者の方も全員がポジティブで、みんな生き生きと暮らしている。このギャップをクリエイティブの力で変えていくことができないかと思い、『as a cafe』のプロジェクトがスタートした」と語る。

 マンジョット氏は、過去10年にわたり伊勢神宮の「式年遷宮」の広告制作に携わった経験を持つが、このことも福祉や介護という未知の領域に向かう決断を後押ししたという。「伊勢神宮の経験を通じて、日本の魅力は、礼儀や思いやり、感謝の気持ちといった目に見えないものにあることを実感した。そして、介護こそが、その魅力の塊であると確信するようになった。日本の広告業界で学んだことを、何かの形で恩返したいと考えていたが、その第一歩が今回の認知症カフェ『as a cafe』であり、クリエイティブで介護を変えていくことが私にとっての使命であると感じている」と語った。

 「as a cafe」のプロデュースにあたっては、企画立案、コンセプトの設定からブランディング、設計図までもマンジョット氏自らが引き、インテリアはもちろん設置するオブジェや装飾などにもクリエイティビティを盛り込んでいる。さらに、認知症は初期段階から発症にいたるまで、約25年間もの間があるという実態を踏まえて、長い関係性を作れるように居心地の良い空間作りを徹底的に目指したという。

 「『as a cafe』は、家でもなく、仕事場でもなく、誰もが気軽に立ち寄れて、くつろげる空間を創り出そうと考えた。ここには、将来、自分が歳をとった時に、こんな施設があったらいいなという理想も重ねた。その結果、室内のデザインはとにかくシンプルにして、壁の色も白と黒の2色に絞った。あえて色のイメージを付けないことで、訪れた人がその時の自分の気持ちを空間に投影できるようにした」とのこと。「その中で、白と黒の壁をリズムよく配置することで、立体感が生まれるように工夫した。また、建物自体が直角的なデザインなので、照明には円形のデザインを採用した。さらに、2階のスペースは、階段からの入り口の天井をあえて低くして、奥を広くすることで、ホッとして安心できる空間を演出した。この他に、窓から太陽光を取り入れ、庭には滝を設置するなど、自然を身近に感じられるように心がけた」と、デザインに込めた想いを語ってくれた。

 「『as a cafe』の空間は、多目的に使えるのも大きな特長だ。壁に写真を飾れば写真展、スクリーンを使って映画鑑賞会、テーブルを置けば勉強会もできる。また、オープンスペースにすれば、ボッチャやダンスなどのスポーツを楽しむこともできる」と、カスタマイズ次第で無限大に活用できるコミュニティ施設なのだと説明する。「『正しいことを正しく』やってしまうと、人は集まらない。『正しいことを楽しく』を大切にデザインしたことで、認知症の人だけでなく、地域の人も含めて、いつ誰が来ても飽きない『as a cafe』のハッピーな空間につながった。これは、私が介護や建築のプロではないからこそ、既成概念にとらわれず実現できたことでもあると思っている」と、日本で唯一無二の認知症カフェが具現化できたことに目を細めていた。

 2015年3月にオープンした「as a cafe」は、昨年「グッドデザイン賞2018」を受賞した。「地域・コミュニティづくり」に分類され、「65歳以上の7人に1人が発症しているといわれている認知症。(中略)知れば、認知症を抱えていても幸せに生きていける術はあると気付くはず。『as a cafe』は、認知症を身近に感じさせ、それと共生していく方法を地域に与えている」と評価している。この講評に対してマンジョット氏は、「今回の受賞は、単なる建物のデザインではなく、施設のコンセプトやライフスタイル提案、地域とのコミュニケーションまで含めて、『as a cafe』が新しい介護へのアプローチとして評価されたものだと感じている。今後も日本の福祉・介護業界に貢献していきたい」と、意欲を見せた。

 行政関係者、福祉に従事者および学生、デザイン・建築従事者および学生を中心に30名超が参加したトークセッションでは、マンジョット氏に加え、「as a cafe」のプロデューサーであり、「あやの里」の副代表でもある岡元奈央氏、日本介護福祉士会の石本淳也会長が登壇。

 岡元副代表は冒頭で、「『あやの里』は、認知症に特化した介護事業所。施設利用者のサポートをする中で、認知症に対する偏見や間違った理解が広がっていることを感じていた。そんな時にマンジョット氏と出会い、地域の人が認知症の患者と触れ合い、認知症のことをもっと知ってもらえる場所として、『as a cafe』を開設した。『as a cafe』は、毎日オープンしていて、無料で誰でも自由に出入りすることができる。また、『as a cafe』を拠点に様々なクリエイティブなイベントを開催しており、アートワークプログラムや、地域のコミュニティ活動、熊本大学の学生とのコラボプロジェクト、他業種とのコラボイベントなどを展開している」と、「as a cafe」を紹介した。

 続いて石本会長は、「介護業界は、人手不足が深刻な課題となっている。これには、職場環境の問題や、介護にネガティブなイメージを持つ人が多いという問題が挙げられる。一方で、日本の高齢者数は世界に類を見ない早さで増えており、現在の認知症患者は500万人、あと7、8年で、700万人を超えると言われている。もはや、介護や認知症は特別なものではなく、日常の暮らしにおいて身近なものになってくることは間違いない」と、介護を取り巻く現状を解説する。「問題を打破する鍵は異業種連携。マンジョット氏のようなクリエイターの力が今こそ業界に必要と感じている。介護というものがポジティブでクリエイティブであると知ってもらう。そうすれば歳を重ねることや、認知症を恐れず、住み慣れた地域で幸せな人生を送ることができる」と、「as a cafe」の活動、実績を評価した。

 今後の取り組みについてマンジョット氏は、「『as a cafe』をモデルケースとして、熊本から日本全国、そして海外に“KAIGO×creative”を発信していく。これによって、介護に向き合う一人ひとりのマインドを変えていきたいと考えている。例えば、街で困っている人がいたら手を差し伸べるということが当たり前のようにできる社会を、クリエイティブの力で作っていきたい。このマインドが広がっていけば、自然に『as a cafe』と同じような空間が全国に増えていくと期待している」と、“KAIGO×creative”を熊本から発信し続けることで、日本の福祉を変えていくのだと力を込める。最後に、「2019年は介護職のブランディングに力を注ぐ。介護職はカッコいい仕事で、誇れる仕事であることを、若者やその親世代にアピールすることで、介護業界の人材不足解消に貢献していきたい」と宣言。来場者の大きな拍手に包まれた 。

認知症カフェ「as a cafe」=http://www.ayanosato.net/asacafe/


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