医療最前線

「ダヴィンチ」を用いたロボット手術の実際とメリットを探る、前立腺がんの全摘術における患者の負担を大幅軽減

2018.04.10 10:26 更新

 4月1日に行われた診療報酬改定にともない、手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使ったロボット手術の保険適用対象が大幅に拡大された。従来は、前立腺がんと一部の腎臓がんのみが保険適用となっていたが、これに加えて、肺がんや食道がん、胃がん、直腸がん、膀胱がんなど12の術式にも保険適用が広がったのである。そこで今回、ロボット手術で国内トップクラスの執刀経験を持つNTT東日本関東病院 泌尿器科部長の志賀淑之先生に、「ダヴィンチ」を用いたロボット手術の実際とそのメリット、今後の展望などについて聞いた。

 「ダヴィンチ」は、米国で前立腺がんの患者が急増したことを受け、国を挙げて治療に取り組み、その一環として開発された手術支援ロボット。1999年に米国ベンチャー企業のIntuitive Surgical社から臨床用機器として販売されている。日本においては、2009年11月に薬事承認され、2012年に前立腺がんの全摘除術に対して、2016年には腎臓がんの部分切除術に対して保険適用となった。NTT東日本関東病院では、昨年1年間で「ダヴィンチ」によるロボット前立腺全摘術を111例施行したという。

 「前立腺は、男性特有の臓器で、膀胱から尿道に向かって、尿が出ていく出口の部分に巻き付くように存在しており、精液の一部である前立腺液を分泌する役割を担っている。この前立腺にできるがん細胞が前立腺がんとなる。好発年齢は65歳くらいで、血液検査によるPSA測定で早期発見することができる」と、前立腺がんについて志賀先生が解説。「前立腺がんの治療法としては、手術療法、放射線治療、ホルモン療法があり、手術療法では、前立腺全摘術が行われる。『ダヴィンチ』は、この前立腺全摘術に対して保険適用されている。『ダヴィンチ』によるロボット手術は、開腹手術に比べて皮膚切開が非常に小さく、出血量も少なくてすむため、患者にとって低侵襲の手術となっている」と、ロボット手術は患者の負担を大幅に軽減できる手術であることを説明してくれた。

 では、「ダヴィンチ」を用いたロボット手術は、実際どのように行われるのだろうか。「『ダヴィンチ』は、本体に内視鏡カメラと複数のロボットアームを備えており、医師は手術台から離れたコクピットからアームを遠隔操作して手術を行う。前立腺全摘術では、まず、腹部に1㎝前後の穴を数ヵ所開け、直径8mmのカメラポートをドッキングさせる。医師は、コクピットのモニターに映し出される3D映像を見ながら、ロボットアームを操作して、前立腺の全摘術を行う」と、ロボット手術の概要を説明。「ロボットアームは、医師がモニターに顔を近づけるとロックが外れる仕組みになっており、勝手に動くことはない。また、モニターの3D映像は、術野を非常にリアルに再現しており、医師の操作とロボットアームの動作の誤差はわずか1/1300秒。これにより、本当に術野に手を入れているような感覚で手術を行うことができる」と、医師の動作と一体化したシステムになっていると教えてくれた。

 「『ダヴィンチ』のロボットアームには、40種類以上の鉗子が用意されており、自由に交換することが可能だ。また、鉗子には関節がついており、360度あらゆる角度で操作できるため、従来の開腹手術では非常に難易度が高かった膀胱尿道吻合に威力を発揮し、前立腺全摘術もより精密に行えるようになった」とのこと。「さらに、手振れ防止機能やモーションスケール機能も搭載。とくにモーションスケール機能では、医師の手の動きに対して、ロボットアームの動きの比率を小さくすることで、手技の限界を超えた精緻な手術を行うことができる」と、高精度の手術を支援する様々な機能を備えているという。

 「ただし、ロボット手術にも唯一の欠点がある。それは、感触がわからないことだ。そのため、開腹手術の経験がない医師が操作すると、腸を引き裂いたり、不用意に血管を切って大量出血を起こすリスクがある」と、ロボット手術の問題点にも言及。「ロボット手術では、医師の手術経験とスキルの高さも重要になる。モニターの3D映像をただ見るのではなく、そこから臓器の柔らかさや感触もイメージできないと、精度の高いロボット手術は難しい」と、医師の手術スキルが高ければ高いほど、「ダヴィンチ」の能力を最大限に発揮できると述べた。

 前立腺がん治療の第一人者である志賀先生は、通常3時間半から5時間かかるとされるロボット手術を、1時間半から2時間で行うことができるという。しかも、手術中の出血量はわずか20cc以下。志賀先生のチームでは、年間平均135件以上のロボット手術を行っており、個人的な執刀数は800症例を超えているとのこと。「私は開腹手術でも700症例以上の経験を持っている。この経験とスキルを生かしながら、極力出血をさせないよう、無理・ムラ・無駄のない丁寧な操作をすることが、結果的に高精度で迅速なロボット手術につながっていると考えている」と、豊富な手術経験を踏まえて、患者を最優先したロボット手術を心がけていると述べていた。

 「ダヴィンチ」による前立腺全摘術を受ける際に、患者が気をつけるポイントについて聞くと、「まず、へそ下の開腹手術を複数回経験している人は、ロボット手術をするのは難しい。また、手術中は頭部を25度下げて、腸を持ち上げた状態を維持するため、脳動脈瘤破裂や心不全のリスクがある人、異常高血圧症、眼圧が高い緑内障の人も、長時間のロボット手術には耐えられない」と、ロボット手術を行うことができないケースを指摘。「現在、ロボット手術を行う病院は国内に約300施設あるが、病院の規模や知名度ではなく、執刀数を重視して選んでほしい。ホームページなどで最新の治療成績を確認し、ロボット手術を年間100件以上執刀している病院であれば、トップクラスの手術を受けることができる」と、病院選びで失敗しないコツを教えてくれた。

 「入院期間は、一般的には2~3週間とされているが、当院では平均9~10日で退院できる。これならば地方に住んでいる人も、少し長めの旅行をする感覚で手術を受けに来ることができる」と、長期間入院する心配はないという。「また、術後に起こる尿失禁も、通常なくなるまで半年から9ヵ月かかるが、当院では退院時にほぼ尿漏れがない状態で、3ヵ月後には解消するため、早期に社会復帰することができる」と、術後も含めて、安心してロボット手術を受けられる環境を整えていると述べていた。

 今後の取り組みについて志賀先生は、「当院では現在、前立腺がん全摘術のほとんどをロボット手術で行っている。一方で、若手の医師が開腹手術の経験を積むことができなくなってきていた。そこで、今後は私が指導者となり、若手医師に一流のロボット手術を教えていく。当院独自の教育ツールとして、VRによるイメージトレーニングができる3Dナビゲーションや、3Dプリンタで作った骨盤模型などを用意しており、ロボット手術のスキルアップを支援していく」と、若手医師からロボット手術のエキスパートを育てていくと意欲を見せた。

NTT東日本関東病院=https://www.ntt-east.co.jp/kmc/


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