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林原、「第23回トレハロースシンポジウム」を開催、トレハロースの最新の研究成果について学術発表、一般から公募した研究のポスターセッションも実施

2019.11.22 10:40 更新

 林原は、トレハロースの研究・開発に携わる産官学の関係者が広く参加し、分野の枠を越えて学術的交流を行う研究発表会「第23回トレハロースシンポジウム」を、東京・御茶ノ水ソラシティ カンファレンスセンターで11月7日に開催した。メインシンポジウムでは、第1部「分子を支える」、第2部「トレハロースを食す」の2部構成で、トレハロースに関する最新の研究成果などを発表する5つの講演を行った。また、今回初めて、公募ポスターセッションを実施し、一般枠から採択された3題についてポスター形式で発表した。メインシンポジウム終了後には、イブニングセッションが開催され、講演者と参加者がポスター発表を通じて積極的に意見交換を行った。

 メインシンポジウムの第1部「分子を支える」では、まず、東京工業大学バイオ研究基盤支援総合センターの櫻井実氏が登壇し、「ストレス保護剤としてのトレハロースの機能メカニズムに関する物理化学的研究」と題した特別講演が行われた。講演では、「ストレス保護剤としてのトレハロースの作用メカニズムとトレハロースの水和性」、「トレハロースにはシャペロン機能がある」、「分子動力学シミュレーションで見えてきたトレハロースリポソームのがん細胞認識機能」の3つのトピックを紹介。まず、トレハロースは、タンパク質や細胞膜などの生体分子/分子集合体を乾燥・凍結・熱ストレスなどから保護する機能を持っているが、この作用メカニズムの仮説(選択的水和、排除体積効果、水置換、ガラス化など)について、研究成果をレビューしながら検証した。あわせて、トレハロースの水和特性と関連性についても説明した。2つ目のトピックでは、すでに変性してしまったものを回復させる機能である「シャペロン機能」がトレハロースにあることを、最新の研究結果をもとに紹介した。そして、3つ目のトピックでは、直近で実施した分子動力学シミュレーションによって、トレハロースリポソームにがん細胞を認識する機能があることを確信できるデータが得られたことを初公開した。

 続いて、群馬大学大学院理工学府の平井光博氏が「放射光X線・中性子散乱を用いたトレハロースによるタンパク質の水和、構造の安定化作用の研究」について発表した。タンパク質の変性や酵素の失活が糖やポリオールの添加によって防止できることはよく知られており、様々な分野で添加剤として広く利用されている。また、凍結、乾燥などの悪化した環境に耐性をもつ生物では、ストレスタンパク質や糖を細胞内に生産、蓄積して生理活性を維持している。特に、トレハロースは低温耐性や乾燥耐性との関連で多くの注目を集めているが、タンパク質構造に対する影響を直接示す知見は非常に少ないのが現状だという。講演では、物質・生命科学研究のためのユニークで強力なプローブとなっている放射光X線散乱と中性子散乱を相補的に用いた、タンパク質の構造安定性や水和状態に対するトレハロースの効果を中心とした研究結果を紹介。今回の研究から、「単糖・二糖のいずれも、native状態のタンパク質の水和構造を保護する」、「単糖・二糖のいずれも、熱変性や化学変性に対するタンパク質の構造安定性を向上し、凝集を抑制する」、「トレハロースは、タンパク質のアミロイド構造転移の初期過程を抑制し、native構造へ回復させる」ことを見出したという。この結果を踏まえて平井氏は、水和状態を直接観測することが可能な中性子散乱と放射光X線散乱の相補利用は有効であるとの考えを示した。

 メインシンポジウムの第2部「トレハロースを食す」は、海外招待講演からスタート。Healthcare Associated Infections Research Group, University of Leedsのマーク H.ウィルコックス教授が登壇し、「トレハロースにはClostridium difficile流行株の出現や感染拡大との関連性はない」と題した講演を行った。Clostridium(近年Clostridioidesと改名)difficile(C. difficile)は、ヒト大腸の下痢や炎症を引き起こす世界的に重大な病原体であり、C. difficile感染症(CDI)は、罹患率、死亡率、医療費の増加に関連するため、多くの国で緊急な対策が必要とされる病原体の対象となっている。そうした中、2018年に発表された一つの論文において、トレハロースがC. difficile流行株(リボタイプ027およびリボタイプ078)の出現や感染拡大に関わっている可能性が示唆されたという。

 これに対してウィルコックス教授は、論文の内容は真実ではないと考え、トレハロースとC. difficileとの間に強い関連性があるかを検証。第1に、ヒトCDIを引き起こす多様性のあるC. difficile株/タイプにおいて、トレハロース代謝変異は広く存在している、第2に、トレハロース代謝関連4遺伝子クラスターの有無とC. difficile患者の重症度に関連性が見いだせない、第3に、欧州、米国、カナダでのリボタイプ027と078の流行期間中に、工業生産されたトレハロースの輸入によって、食事由来のトレハロースの総摂取量が著しく変化したとは考えられない、第4に、ヒトのCDIリスクが予測可能であるin vitro gut modelを用い、トレハロースを添加すると、グルコースや生理食塩水を添加した場合に比べてC. difficileやその胞子数が増加せず、毒素産生が抑制されたことを紹介したうえで、「トレハロースはC. difficile流行株の出現と感染拡大に大きく関与したとは考えにくく、別理由からの説明が求められる」との見解を述べた。

 次に、国立感染症研究所 寄生動物部の下川周子氏が、「寄生虫から産生されたトレハロースは自己免疫疾患を抑制する制御性T細胞を誘導する」をテーマに研究発表を行った。近年、環境が改善され寄生虫感染症や結核などの感染症が減少した一方で、アレルギーや自己免疫疾患は増加の一途をたどっている。このように自己免疫疾患が増加した理由を、感染症が減少したためではないかという考えは古くから存在し、衛生仮説と呼ばれているとのこと。特に先進国では寄生虫感染数は大幅に減少しており、それらの地域では自己免疫疾患が増加していることは疫学的にも証明されているという。今回の講演では、自己免疫疾患の中でも、近年発症者が増加している一型糖尿病(T1D)をターゲットとし、腸管寄生蠕虫感染によるT1Dの発症抑制機構について、最新の研究成果を紹介。マウス実験の結果、T1Dの発症が腸管寄生蠕虫によって抑制されたこと、またその抑制には制御性T細胞(CD8+Treg)の誘導が必須であり、そのためには寄生虫が分泌するトレハロース、そしてトレハロースによる腸内細菌叢の変調(ルミノコッカスの増加)が重要であることを見出したと解説した。さらに、T1D患者を対象にしたヒト試験にも言及し、マウスと同様に、ヒトでも制御性T細胞(CD8+Treg)とルミノコッカスに高い相関があることが明らかになったと説明した。

 最後に、林原 研究部門の新井千加子氏が、「トレハロースの脂肪細胞肥大化抑制メカニズムを探る」と題した講演を行った。同社では、これまでにトレハロース摂取が高脂肪食誘導肥満モデル動物の腸間膜脂肪細胞肥大化や耐糖能を改善することを報告してきた。また、一般的な食生活を送る肥満傾向にある健常人でも、1日10gのトレハロース摂取が耐糖能を改善し、メタボリックシンドロームへの進行を予防する可能性を見出し報告した。しかし、トレハロースのこれらの作用メカニズムは、十分に解明できていないのが実状であった。講演では、この作用メカニズムを探るために実施した3つの試験について紹介。「健常人モデルとして通常食摂取マウスに対するトレハロース飲水の効果」、「トレハラーゼノックアウト(KO)マウスを用いた高脂肪食誘導肥満モデルに対するトレハロース飲水の効果」、「in vitro脂肪細胞とin vivoマウス内臓脂肪細胞に対するトレハロースの直接作用」に関して、それぞれ試験を行ったという。そして、これら試験の結果を踏まえ、トレハロースの脂肪細胞肥大化抑制による抗メタボリックシンドローム作用のメカニズムは、(1)ベージュ細胞増加による脂肪燃焼、エネルギー消費亢進、(2)腸粘膜脂肪トラップによる脂質移動の低減、(3)脂肪細胞に対する直接作用に基づくものであるとの考察をまとめた。

 なお今回のシンポジウムでは、初の試みとして、公募ポスターセッションが行われた。このセッションでは、一般枠から採択された3題についてポスター形式で発表した。

 成蹊大学理工学部物質生命理工学科の小河重三郎氏は、「トレハロース構造の特徴を活かしたトレハロース脂肪酸エステルの機能開拓」について発表。トレハロースは、酸や熱に対して極めて安定な非還元性二糖であり、またリパーゼのような酵素触媒を用いて第一級水酸基のみに位置選択的に脂肪酸を導入させることで、一置換体と二置換体に限定した脂肪酸エステル化合物を調製できる。小河氏はこれまで、リパーゼを用いたトレハロース脂肪酸エステルの調製、親水部のトレハロースの特徴を考慮した上でのトレハロース脂肪酸エステルの物理化学的特性の評価、さらに糖質フリーを可能にするタンパク質の安定化剤としての利用性開拓について展開してきたという。トレハロース脂肪酸モノエステルは、両親媒体性構造を有することにより、キュービックやラメラなどの液晶相を形成することができ、さらにトレハロース構造の影響からそれらの状態で容易にガラス化した。また、界面活性能とガラス形成能を併せ持つ二機能性により、タンパク質の凍結乾燥保存に対し優れた安定化剤となることも明らかになったと説明した。

 産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門の室富和俊氏は、「トレハロースは肥満型糖尿病モデルTSODマウスのNASH病態を軽減する」ことについて発表。トレハロースは非還元性の二糖だが、インスリン抵抗性を軽減し、食後高血糖を抑制する。さらに、トレハロースがオートファジーを誘導し、脂肪肝を抑制することが明らかになっている。従って、糖尿病を併発するメタボリックシンドロームに対してトレハロースの有効性が期待されるが、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に対する効果は不明であった。そこで室富氏による研究では、メタボリックシンドロームモデルTSODマウスを用いて、NASHに及ぼすトレハロースの効果を検証。TSODマウスに4週間トレハロースを投与した結果、肝臓の脂肪変性や細胞障害が抑制され、NASH病態が顕著に抑制された。さらに、TSODマウスの内臓脂肪重量の増加、耐糖能異常、十二指腸の鉄沈着も軽減され、トレハロースが脂肪蓄積や鉄過剰吸収を抑制することが示唆された。これらの結果から、トレハロースは糖尿病を発症するTSODマウスのNASH初期症状を抑制することが明らかになったという。

 山梨県畜産酪農技術センターの松下浩一氏は、「ブロイラー生産におけるトレハロースの利用」について発表。トレハロースには多彩な物性機能と生理機能があり、食品、化粧品、医薬品だけでなく、牛や鶏など家畜の飼料にも利用されている。肉用鶏(ブロイラー)では、鶏肉の加熱臭を低減する目的で配合飼料化されているほか、近年、ブロイラーのヒナにトレハロースを与えると、体重が増加すると共に腸管の免疫応答が改善することも報告されている。ブロイラーの生産現場では、生産性を高めるために一般的に抗菌剤が使用されているが、消費者の求める食の安全性の観点から抗菌剤の使用をなくす動きがあるという。そこで今回の研究では、抗菌剤を全く使用しない飼育方法(無薬飼料下)におけるトレハロースの効果について検証したところ、トレハロースを与えることで出荷時の体重が増加し、1羽あたりの粗収益が優れる結果となった。この結果から、無薬飼料下でのブロイラー生産におけるトレハロースの利用は生産性を高め、収益の向上につながる可能性が示されたと説明した。

 閉会にあたり、日本応用糖質科学会副会長/日本大学生物資源科学部教授の西尾俊幸先生が挨拶した。「有用な化合物を開発するアプローチには、新しい化合物を天然界から探したり、有機合成によって人工的に作るなど様々な方法がある。その中で、既存の化合物が潜在的に持っている機能をいろいろな角度から探り、開発していく取り組みも非常に重要だと考えている。その意味でトレハロースは、このシンポジウムを通じて、隠れた機能や能力をどんどん掘り起こしていく試みが行われている」と、トレハロースの可能性はさらに広がってきていると力を込める。「私は、1つの物質に秘められた多種多様な機能を探り、有用なものに育てていくことを“探育”と呼んでいるが、トレハロースシンポジウムはまさに“探育”の場であり、ぜひ今後も長く続けていってほしい。そして、トレハロースがスーパーオリゴ糖として、さらに発展していくことを願っている」と、これからもトレハロースシンポジウムが続いていくことに期待を寄せた。

 メインシンポジウム終了後には、講演者との交流会としてイブニングセッションが開催された。イブニングセッションでは、各講演者がメインシンポジウムで発表した研究内容をまとめたポスターを掲出し、様々な分野の参加者とトレハロースの新たな可能性について意見交換を行った。

林原=https://www.hayashibara.co.jp/


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