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林原、「第22回トレハロースシンポジウム」を開催、"トレハロース研究の新たな挑戦"をテーマに最先端の研究成果について学術発表、講演者と参加者が自由に意見交換できる場も提供

2018.11.16 12:51 更新

 林原は、トレハロースの研究・開発に携わる関係者が参加し、分野の枠を越えて学術的交流を行う研究発表会「第22回トレハロースシンポジウム」を、東京・御茶ノ水ソラシティ カンファレンスセンターで11月9日に開催した。今回のシンポジウムでは、“トレハロース研究の新たな挑戦”をテーマに、2部構成で全7題の講演が行われ、トレハロースに関する最先端の研究成果について発表された。また、講演終了後には、イブニングセッションを実施し、ポスター発表を通じて、シンポジウムの講演者と参加者が自由に意見交換を行った。

 トレハロースシンポジウムの第1部「トレハロースと生命、食糧、環境」では、まず、香川大学農学部の藤田政之氏が「トレハロースによるイネの環境ストレス耐性の強化」について発表を行った。環境汚染や近年の温暖化による気候変動がもたらす様々な環境ストレスは、植物の光合成活性を抑制し、種々の成長パラメータを低下させ、とくに著しく強いストレスは植物を死に至らしめるリスクもあるという。講演では、環境ストレスとして、重金属(銅)ストレスおよび高塩ストレスを例に挙げ、イネのストレス耐性におけるトレハロースの有効性について研究結果を紹介した。イネはトレハロース含有量が少ない植物に分類されるが、実験でトレハロースを外部処理したところ、体内含量が増加し、重金属(銅)ストレスと高塩ストレスに対する耐性が増加することが明らかとなった。また、この理由として、トレハロースが持つ様々な化学特性がイネの体内で生理・生化学的に有利に働き、イネの抗酸化防御系およびグリオキサラーゼ系が補強・強化されるためであることがわかった。この結果を受け、トレハロースは、トレハロース非蓄積型の植物に対して、環境ストレス耐性を強化する植物保護剤としての利用価値が期待できるとの考えを示した。

 続いて、微生物化学研究会 微生物化学研究所の和田俊一氏が「トレハロースと類縁体化合物の神経変性疾患治療薬としての可能性」について発表した。トレハロースは、ハンチントン病での効果が発見されて以来、アルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病など各種の神経変性疾患モデルマウスに顕著な治療効果を示すことが報告されている。和田氏が行った研究でも、トレハロースは、アルツハイマー病のマウスに初期段階で高濃度投与すると、短期間だがアルツハイマー病の治療効果があることが示唆されたという。この治療効果については、詳細な分子機構は明らかになっていないが、今まではトレハロースが神経細胞に直接的に作用するものと推測されることが多かった。しかし和田氏は、これには疑問点・矛盾点も多いと指摘。トレハロースは神経細胞に直接作用するのではなく、口腔や消化管内表面の感覚細胞に触れることで飢餓状態シグナルが発生し、オートファジーが誘導され、アルツハイマー病に治療効果を示すのではないかとの推測を述べた。また、講演では、和田氏が開発を進めている、酵素難分解性で生物学的利用能が改善されたトレハロース類縁体群(レンツトレハロース類)の概要についても紹介した。

 3題目は、ワシントン大学医学部のババク・ラザニ氏が登壇し、「トレハロース:アテローム性動脈硬化および関連代謝異常を改善するマクロファージの形成」と題した講演を行った。オートファジー・リソソーム系は、異常なタンパク質やオルガネラを分解する細胞異化の機構とされている。この系の機能不全がアテローム性動脈硬化および、肥満や糖尿病などの関連代謝異常において観察され、とくに組織内マクロファージで機能不全がみられ、このことが病状進行の重要なトリガーとなっているという。講演では、マクロファージの分解能を高め、臨床応用可能な誘導因子を探る中で、トレハロースが血管および代謝に対して優れた作用を持つことが明らかになったことを紹介。トレハロースは、リソソームストレスに起因する転写因子TFEB(オートファジー・リソソーム生合成の主な転写制御因子)の活性化を介してオートファジーを増強する。その下流における重要な作用として、選択的オートファジーの誘導による細胞毒性を示すポリユビキチン化タンパク質凝集体の除去、さらに炎症性シグナルの減弱化が明らかになったという。また、これらin vitroの結果の妥当性を確認するため、さらにアテローム性動脈硬化や肥満、糖尿病などのマウスモデルを用いて検討した。この結果、心血管および心血管代謝異常症の治療のための有望な物質として、トレハロースをマクロファージ分解能誘導物質として真剣に考えるべきであると結論したとまとめた。

 休憩をはさんで、シンポジウムの第2部「様々な分野で見えてきたトレハロースの可能性」がスタート。4題目は、岡山県立岡山一宮高等学校 理数科 2年生の水川慶紀さん、片岡優斗さん、中山悠馬さん、二宮愛富さん、森本悠斗さんによる「トレハロースを添加した溶液を用いた高校化学実験」の発表が行われた。普段、高校の授業でトレハロースが用いられることはないが、今回、「岡山名物のきびだんごにトレハロースが含まれており、トレハロースを添加することできびだんごの柔らかさが保たれることを聞いた」ことをきっかけに、高校化学の実験でトレハロースを添加すると、実験にどのような影響を与えるのかを調べたという。講演では、「電気泳動」、「金属樹(銀樹)」、「金属メッキ(亜鉛)」の3つの実験で、それぞれトレハロースを添加した時の影響について発表し、実験結果に対する考察を述べた。

 5題目は、神戸大学バイオシグナル総合研究センターの森垣憲一氏が「生体分子のインクジェット塗布におけるトレハロースの効果」について発表した。生体膜は、細胞において情報伝達、エネルギー変換などの重要な機能を担っており、そのため、現在使用されている医薬品の半分以上は、膜結合型タンパク質をターゲットにしているといわれている。森垣氏は、生体膜の構造と機能を模した人工膜をシリコンやガラスなどの固体表面に作製し、生体膜と食品成分、薬物などとの相互作用を定量的に評価できるバイオチップを開発し、その中で、生体分子を固体基板に塗布する手法として、インクジェットを用いた生体膜および膜タンパク質塗布技術を開発したという。しかし、この技術には、塗布後に生体分子や生体膜の構造や機能を保持するために水和が必要になるという課題があった。講演では、生体膜のインクジェット塗布時に、トレハロースを添加することで、塗布および分子機能保持を大幅に改善することが明らかになったことを解説。微小液滴や微小空間での生体分子(とくに疎水分子)の扱いには乾燥対策が重要となるが、その保湿剤としてトレハロースが大きな効果を発揮するのではないかとの考えを示した。

 6題目では、千葉工業大学工学部の寺本直純氏が登壇し、「トレハロースからつくる様々な構造のポリマー」と題した講演を行った。トレハロースは、二分子のα-グルコースがいずれも1位の炭素において酸素原子を介し互いにつながった、特殊な構造を有する二糖となっている。講演では、トレハロースの化学的安定性と構造の特色を生かしたポリマーの化学合成に関する研究内容について発表。「トレハロースと他の化合物を直鎖状につなげる研究」、および「架橋型のポリマーを合成する研究」の2つの研究を通じて合成したポリマーとその性質を紹介した。また、一部のポリマーに関して、細胞親和性の評価を行った結果についても紹介。このうち、シナモン油に含まれる桂皮酸との反応で合成したエステル化合物は、光硬化が可能な構造を分子内に複数持つため、紫外光照射によって重合できることがわかったという。さらに、このエステル化合物を溶媒に溶かしてガラス板上に塗布し、紫外光照射を行うことで、均一な薄膜が得られ、その薄膜上で繊維芽細胞を培養したところ、良好な細胞の増殖が観察されたと報告した。

 7題目の講演は、農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門の黄川田隆洋氏が、「乾かしたまま保存する方法:トレハロース処理昆虫細胞を利用した乾燥感受性酵素の長期常温保存技術」について発表した。多くの酵素は、乾燥や熱などの影響を受けて変性し、やがて活性を失っていく。変性を抑制するためには、一般的に低温条件下での運搬や保存が必要とされている。これに対して、黄川田氏は、干からびても元通りに蘇生可能なネムリユスリカが持つ、特異的な分子機構に着目し、有用タンパク質の長期常温乾燥保存技術の開発を進めてきた。研究では、ネムリユスリカから作出した、乾燥に耐性を持つ培養細胞(Pv11)に、乾燥で壊れやすい酵素であるルシフェラーゼを導入した結果、安定的にルシフェラーゼを発現する細胞(Pv11-Luc)を樹立したという。さらに、Pv11-Luc細胞を、高濃度のトレハロース溶液に浸した後、完全に脱水して細胞全体をガラス化させ、デシケーターに常温保存した。1年後、乾燥細胞に培養液を添加したところ、細胞が蘇生し、ルシフェラーゼも活性が認められることが明らかとなった。この研究結果から、ネムリユスリカの乾燥耐性機能とトレハロースを組み合わせることで、エネルギーフリーな酵素の保存技術に展開されることが期待されるとの見解を述べた。

 閉会にあたり、日本応用糖質科学会副会長/日本大学生物資源科学部教授の西尾俊幸先生が挨拶した。「最初は、トレハロースという1つのオリゴ糖をテーマに、22回もシンポジウムが開催されていることに驚いた。しかし、今回のシンポジウムを通して、トレハロースの持つポテンシャルの大きさや、トレハロースを単なるオリゴ糖ではなく、スーパー分子として大切に育ててきた林原の姿勢を強く感じることができた」と、トレハロースの可能性を改めて感じさせるシンポジウムであったと語る。「私が大学で教えている学生も、トレハロースをテーマにレポートをまとめてくるなど、トレハロースへの関心度が高まっている。今後、トレハロースの用途がさらに開発されて、様々な分野に利用が広がっていくことを願っている」と、トレハロースが幅広い分野で活用されていくことに期待を寄せた。

 なお、シンポジウム終了後には、講演者との交流会としてイブニングセッションを実施した。イブニングセッションの会場では、各講演者がシンポジウムの講演内容についてまとめたポスターが掲示され、様々な分野の参加者とトレハロースの可能性について意見を交わした。また、林原の研究者による「トレハロースの物理化学的特性に関する取得データ紹介 -水和特性等-」のポスター発表も行われ、トレハロースが持つ多様な特徴・機能の中から水和特性およびガラス特性にフォーカスをあて、実験データを踏まえながらその特性について説明した。

林原=https://www.hayashibara.co.jp/


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